関西発・地方創生とマーケティング #27
マーケティングとデザインの関係性 ― セメントプロデュースデザイン 金谷勉
全国の町工場や工房の再生を手掛けているセメントプロデュースデザインの金谷勉さんへのインタビュー後編をお届けします。前編に続き、これまでの歩みから、マーケティングとデザインの関係性まで詳しく話を聞きました。
きっかけはSNSからだった
(前編は、こちら)セメントプロデュースデザインが、
やはり大切なのは、きちんと自分たちの商品情報を発信すること。そして、そこからの人との繋がりを大切にして、セメントのように繋げていくことなのでしょう。
差別化は、価格ではなく企画で
金谷さんは自分自身のことを「ニュー問屋」だと表現します。もともと問屋という存在は、商売の座組みをする、今で言うところのプロデューサー。分業の職人を取りまとめ、誰が何をつくれば売れるのか差配する役割を担っていました。
ですが、今ではユニクロなど製造小売業(SPA)が台頭し、問屋はマージンをとるだけという風潮があります。
「問屋が本来担うべき役割を果たしていないから、多くのメーカーが企画で差別化せず価格で差別化するようになってしまった。また、工場や工房の職人が自らつくり、売り、考えなければいけなくなってしまった。だけど、職人がこれらすべてを担うのは、無理な話。だから、問屋は本来の仕事をすべきだ」と、金谷さんはその必要性について説きます。
マーケティングとデザインの関係
ところで、皆さんはマーケティングとデザインの関係について考えたことはありますか?
誰にどういうデザインの商品をどういうパッケージで提供するのか
でも、Appleの商品が売れるのはデザインの良さも重要なポイントになっていますし、バルミューダについても然りでしょう。もちろん、デザインには意匠だけではなく、使いやすさなど機能も含むものだと思います。「形態は機能に従う」。アメリカの建築家、ルイス・サリヴァンの言葉として学生時代、建築の授業で習ったことを思い出します。
さて、金谷さんはもともとデザイン会社として起業されたのですが、今はデザインだけではなく、商品が売れる支援までを担っていらっしゃいます。そこでマーケティングとデザイン、双方についての考え方を聞いたところ、次のように切り出されました。
「マーケティングとは、不確定要素を潰していくための作業、売れない確率を下げること。商品はつくって終わりではなく、きちんと売って、買い手に届いて初めて商品になりえます」
当然ですが、ある工場が商品をつくろうとしたとき、つくれるものなら何でもいいということはありません。その工場の持つ強み、例えば素晴らしい技術や、すでにある商品の意味を大事にする必要があります。
また、下請けを生業としている工場や工房の職人は普通、自分の技術に値段をつけることはありません。しかし自身の商品を世に出すとなると、どこまで値段を上げて大丈夫な商品なのか、見極める必要が出てきます。そのために、商品を展示会に出して、直接お客さまの反応を見るようにしているとのことです。
ただ、コロナ禍の今は、そういう機会も限られています。
「しかし現実は、EC以前にSNSにさえ力を入れていない企業が多いのです。気が向いた時だけではなく、毎日投稿しないとダメだし、反応が悪いのは商品のせいなのか、なぜなのか、理由を考えないといけません。コロナをマイナスにとるかプラスにとるかは自分たち次第なはずです」と考えを述べられました。
一方、デザインについては、「商品をデザインするということは、単に設計して色や柄を決めるだけではなく、それをどう見せて、どういう売り場でどう売ってもらうか。きちんと出口を見据えて、企画から流通までを考えて動く。いわゆる、こと、もの、みち(技術、意匠、販路)の一連をデザインすること」だと言います。
例えば、「素晴らしいデザインの商品をつくりたい」と依頼してくる人がいるけど、じゃあ金谷さんが「好きなものをつくっても良いか」と問うと、それは困ると言う。次に、「それはなぜなのか、何のためにやるのか」と問うと、「自分はこうしたいからだ」と理由を言う。この時になって初めて彼らは考え、まさにそれが自分たちの目的なのだと認識できるようになるわけです。
つまり、金谷さんの考えるデザインとは、ものをつくるところから売るところまでという、ある意味マーケティングそのものなのでしょう。