関西発・地方創生とマーケティング #28

えとじや 岡本晋介さんとの雑談から考えた「顧客中心の戦略設計」とは?

前回の記事:
マーケティングとデザインの関係性 ― セメントプロデュースデザイン 金谷勉
 

数々のブランドを成功に導いた立役者

 先日、兵庫県芦屋市にある、えとじや岡本晋介さんの事務所にお茶を飲みに行ったところ、マーケティングと人材の話であっという間に5時間も過ぎてしまいました。いろいろな話をしましたが、いずれの話にも共通していたのは、消費者の「マインド・気持ち」が大切だということです。
 
えとじや岡本さん
 今回は、ブランドマーケティング一筋30年、えとじや岡本晋介さんとお話した内容をご紹介します。

 岡本さんは大学卒業後P&Gに入社、コンセプト開発、新製品導入から広告制作、消費者リサーチなど、あらゆるブランドマーケティング業務を経験してきたマーケターです。携わったブランドは、アリエール、パンテーンなど、その他多数。

 P&G退社後は、2009年にマーケティングなんでも相談所「えとじや」を設立。現在はブランドマーケティングに関するアドバイスなどのマーケティング支援を行っています。

 数々のブランドを成功に導いたことから、今でも多くのトップマーケターから尊敬され、さまざまな相談が岡本さんに寄せられます。岡本さんのブログもマーケティングの本質を分かりやすく解説して、ファンも多いです。

 今回は雑談が目的の訪問でしたが、色々な話題についてお話が出来ましたので、その中で特に皆さんに役立つだろうと感じたものを思い出しつつ、そして岡本さんにも追記していただき、お届けします。
 

コロナ前に立てた戦略は今どこまで使えるのか

 まず1つ目の話題として話にあがったのは、「コロナ前に立てた戦略はいまでも使えるのか?」というものです。

 ここでは、私がホテル勤務ということもあり、とあるホテルの話になりました。そのホテルは日本有数の観光地、かつ駅前という恵まれた場所にあり、近年はインバウンド需要の高まりも追い風に、稼働率・客室単価ともに高い状態を保っていました。

 しかし、そのうちに周辺に競合ホテルや民泊の進出が続き、顧客の奪い合いから価格競争の様相を呈してきました。その対策として、インバウンド需要を前提としながら新たな戦略を打ち立てるようになります。

 ところが、しばらくして新型コロナウイルスが流行し、その影響で少なくとも1~2年はインバウンド客の宿泊利用が期待できない状況に陥りました。そうなると、インバウンド需要を見越した戦略は有効に働きません。戦略をがらっと変えるべきなのか、以前の戦略がどこまで使えるのか、ホテルのマーケティング担当者も疑問に思っていたといいます。

 悩んだ結果、ふたりでたどりついたのは、「戦略を丸ごと変更するのではなくて、発想を転換させてみようということ。全室満室を目標に、稼働率を重視した方針に戻るのではなく、サービスを充実させて顧客満足度を上げ、客室単価を上げていくことが、コロナがあろうとなかろうと必要なことではないか」と。
 

 もともと、部屋数の割にロビーの広さやフロントの数が足りていなかったこと、日本人利用者が半数以上あったことから、たとえインバウンド客がなくなっても、稼働させる客室の数や働くスタッフの数などを工夫しながら価値の高いサービスを提供できるのでは、ということです。

 この例から言えるのは、コロナの影響で変化が生じた場合、戦略を具現化するプランには変更が必要かもしれないけど、もともとの戦略の本質を変える必要はないのではないかということです。

 つまり、コロナで状況が変わったから、以前に立てた戦略がまったく役に立たないということはなく、その事業の根本に立ち返れば、必ず通底して使える要素があるということ。

 そして、私たちふたりの結論は、「そういう意味でも、コロナ禍の今は、基本に立ち返って考える。そして過去からの成功体験を引きずって、今まで通りの仕事のやり方では立ち行かないということに気づく、実はいい機会になっているという見方をすべきですよね」ということでした。

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