関西発・地方創生とマーケティング #03

あなたの「仕事」の本質は何ですか?三重県「志摩スペイン村」での取り組み【近畿日本鉄道 能川一太】

前回の記事:
やりがいのある仕事の創出が、人材確保につながる-三重県・志摩スペイン村での試み

現場に出るからこそ、アイデアが生まれる

 私が村長を務めた、三重県のレジャー施設「志摩スペイン村」のおススメのショーは、本場スペイン人によるフラメンコショーだ。毎年マドリッドとバルセロナで開催される、10倍の倍率を超えるオーディションに受かった踊り手がクオリティの高いショーを提供している。




 このショーを見るためには、パークの入園料に加えて500円(1ドリンク付)が必要となる。私の赴任後の3年間で、売り上げが40%増となった。
 


 具体的に何をしたのか。

 まず私自身が何回もショーを鑑賞して好きになった。好きになることでお客さまに見てもらいたいと、オススメしたくなる。そうすると、何をすれば良いのかを必死で考えるようになる。

 ここで大事なのは、オフィスで頭が疲れるまで考える。そして、必ず現場に足を運ぶことだ。幸いなことに、テーマパークで働くメリットは、オフィスで行き詰まったときに一歩外に出ると、そこが非日常空間であるということだ。

 お客さまやキャストの何気ないひと言や動作を偶然見かけて、数日間必死で考えても出なかった答えが、文字通り“降りてくる”ことが何度かあった。かつて上司から現場は大事だと言われてきたが、ここに来てやっと、「ああ、こういうことを言っていたのか」と得心したものだ。

 ホールで立礼していると、お客さまから「素晴らしい!感動した!500円では安すぎるので、もっと宣伝すべき!」といった、お言葉をいただく。さらに、現場に出ると、ゲストとキャストの生の声が聞け、何に取り組むべきかを判断する上での肌感覚が身につく。
 

無料トライアルで、体験の機会を創出


 このフラメンコショーの宣伝費は、ほぼゼロ。そこで無料でも良いので一度見ていただければリピート来場が期待でき、さらに口コミで情報も広がるだろうと、色々なキャンペーンを仕掛けた。

 現場にいると、ときたま小さなお子さまがぐずって途中退席する場面に出くわす。キャストに聞くと、特に夏休みなどは受付時に、親から子連れでも参加できるのか、確認されると言う。それならいっそ、分かりやすく子供無料を打ち出してみようという話になり、1週間限定で実施してみた。

 アンケートをとると、子どもが無料だから一緒に来場したという大人(有料)が子どもの数よりも多く、結果的に売上に貢献した。これも現場に行かなければ気づくことがなく、実現には至らなかったことだ。

 他にも、誕生日は無料、学生は無料、指定レストランで食事したら無料、有料ゲームをしたら無料、SNSにアップしたら無料など、フラメンコショーのトライアルを促す施策をいろいろと試したが、まあ打率は5割くらいだったと思う。お金がないからこそ、自分たちで必死に考える。その結果、人が育つのではないか。

 なかでも面白いなと思ったのは、同じ子ども無料でも公式ホテルにご宿泊のご家族は、それ以外のご家族に比べ鑑賞率が高いということだ。お子さま連れのファミリーとひと括りにせず、ターゲットを絞り込むことで、効率的に訴求できることも分かった。これも思いつく限りのキャンペーンを打ったことと、その都度アンケートを実施した結果として分かったことで、組織としても個人としても勉強になった。

 フラメンコショーも、ひとり当たり500円と安価であるし、キャンペーンに追加費用がかかる訳でもないし、「損して得取れ」かもしれない。とにかくやってみよう、という雰囲気の醸成と、必ず数字で検証することが大事なのだと思う。

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