関西発・地方創生とマーケティング #03

あなたの「仕事」の本質は何ですか?三重県「志摩スペイン村」での取り組み【近畿日本鉄道 能川一太】

マーケティングのアイデアは現場の愚痴にある


 現場には必ず不満がある。現場を回って、毎日のように顔を合わせていると、愚痴をこぼしてくれるようになる。これが良いアイデアにつながる。実は、愚痴には売り上げアップのヒントが満載なのだ。



 例えば、フラメンコショーの鑑賞料にはコーヒー代が含まれるのだが、会場ではアルコールも別に販売していた。暑い日には、男性からはスペインビール、女性からはサングリアが飲みたいとよく言われるのだが、当時のお客さまはコーヒーと合わせて2杯飲むことになるため、アルコールを飲むのをやめるということになる。現場のキャストからすると、お客さまに申し訳ない、そしてせっかくの売上を逃しているという。

 対策は簡単で、コーヒー代を差し引いてアルコールだけを差額料金で提供すれば良いのだ。実際に、そう改善することで売上は伸びた。

 当然、全てのキャンペーンや施設が成功したわけではない。では、上手くいった事例の要因は何か。それは、現場と一体になれたことではないかと思う。

 一例だが、社外パートナーも含めて、良い関係がきずけたことがある。フラメンコショーのランディングページを現場と一緒になってつくった。通常、Webサイトは宣伝部門がイニシアティブをとって(ともすれば現場の意見を聞かずに)進めるのだが、今回はそうしなかった。

 最初は現場も初めてのことで戸惑っていたが、最後は楽しそうで良い経験ができたのではないかと思う。
 

売上げだけがマーケティングの指標ではない


 乗り物のキャストには売上という目標となる指標がなかった。そこで、接客レベルのアップになればと、遅まきながら褒める仕組み、いわゆる「グッジョブカード」を始めた。

 すると、きちんと見てもらえているということがやる気を引き出したのか(全員ではないが)、サンキューメールが増えたほか、カードを渡す上司サイドにも、部下の特に良い所を見つける習慣付けになった。そして、なによりコミュニケーションが取れるというメリットも大きいと思う。

 また、ゲストからの問い合わせをデータで共有することで、ゲスト対応がノウハウとして蓄積され、結果的にクレームが減り、それがキャストのやり甲斐にもつながり、結果的にCS(カスタマーサティスファクション)が向上するという好循環が生まれた。



 そう、売上だけがマーケティングの指標ではないのだ。お客さまからの意見や感謝の言葉こそが、ゲストへの価値提供の評価なのだ。キャストのモチベーションは、ゲストからの「ありがとう」と言う言葉にこそある。

 こうした、スタッフの満足度を高めて行く取り組みも、ひとつのマーケティングなのではないかと思う。キャストがゲストから、一言でも多く「ありがとう」という言葉をもらえるよう、しっかりと仕事をしていけば自然と良い職場が生まれ、それが周囲にも伝わり、そこで働きたいという人たちが現れる。そういう企業が増えれば、その地方が活性化し、地方創生につながると思うのだ。

 ゲストは、テーマパークに何を求めているのか。例えば、大切な人との楽しい思い出づくり、だとする。そうなると、現場キャストの仕事は、目の前にいるゲストに楽しく過ごしていただくお手伝いをすることになる。そして、その上司の仕事は、その環境を整えること。そして、さらにその上司の仕事は、何だろうか。立場や環境によって仕事の内容は変わるのだろうが、この本質は変わらないのではないか。あなたの、仕事の本質は何ですか。
 
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鉄道会社のマーケティングに必要なことは、地方創生である【近畿日本鉄道 能川一太】
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