ニュースと体験から読み解くリテール未来像 #39

小売業の商圏分析に向けた「データ取得方法」の実際:場に合わせる店、場を作る店④

   

メーカーの利用が多い、プロモーション参加者情報

  
3.プロモーション参加者情報

 3つ目の手法「プロモーション参加者情報」は、メーカーが利用することの多い手法です。

 いまだに「レシートを葉書に貼って応募…」というキャンペーンをよく見かけます。手間はかかりますが、メーカーの希望する設問を(ある程度バイアスがある前提で)回答してもらえるので、多くの費用と手間をかけてでも継続して行っている手法です。

 広告会社や印刷会社が大手小売業に対してデジタル化を推進する仕組みを提案していますが、それでも普及しないのは、今の手法ではデジタルデバイドのある顧客を拾えないという背景があるのでしょう。DX(デジタルトランスフォーメーション)以前に、こうしたリアルな施策をデジタル化するだけで顧客体験は向上するのですが、完全移行には時間がかかりそうです。
   

コンビニドラッグがうまくいかなかった理由

   
 取得した商圏データの用途として、最も一般的なのはチラシの配布エリアの設定です。デジタル化を進める日用品小売業ですが、いまだに最も大きな販促費はチラシです。その費用の最適化にデータを使うわけです。

 次に多いのは、新規出店へのデータ利用であり、よく似た既存店の商圏データを参考に出店可否を判断します。もう一歩先に進む企業は、競合分析の際に一要素として商圏分析データを活用します。

 筆者が提案したい商圏データの活用方法がひとつあります。それは、新規業態や異業態コラボレーションへの活用です。

 「場に合わせる店、場を作る店②:」 において、無印良品の猫草は「一次商圏で求められる商品なのかもしれない」という話を書きました。一方で、商圏のミスマッチでうまくいかなかった業態があります。「コンビニドラッグ」です。

 2009年頃、大手ドラッグストアと大手コンビニエンスストアの業務提携が相次ぎました。ドラッグストアの価格・品揃えとコンビニの利便性を融合しようという意図でした。当時の筆者は、前職でこうした新規プロジェクトに参加する役回りでした。そのためコンビニドラッグのプロジェクトにも参加し、様々な取り組みと仮説検証を行いました。

 ここでは詳細は書きませんが、各社がうまくいかなかった原因のひとつは商圏と来店頻度にあるのではないかと考えます。半径500m以内に3000人以上の昼間または夜間人口がある1次商圏で毎日来店する業態のコンビニエンスストアに対して、2次商圏を視野に入れて週単位で来店するドラッグストア。このアンマッチこそ、コンビニドラッグが成功しない原因のひとつであったと考えています。

 スーパーマーケットを核とし、ドラッグストアや実用衣料品などのテナントを持つ近隣住宅街などの2-3万人商圏をターゲットとしているショッピングセンターをNSC(Neighborhood Shopping Center)といいます。

 駐車場を取り囲むように建物が並び、顧客が目的とする店舗の近くに駐車できるオープンモール形式をとっているため、大型モールよりも建物の費用が安く、顧客にとって短時間で買物ができるというメリットがあります。

 NSCにコンビニエンスストアが入ることは稀です。NSC は地価が高い地域にはつくりにくいため、周辺500m以内に3000人の人口を確保できないことがひとつの要因です。また、NSCに車で来店した場合、食品を買うのであればスーパーマーケット、日用雑貨を買うのであればドラッグストアや100円ショップがあり、コンビニエンスストアの需要がスタンドアローンと比較して減るという要素もあります。

 顧客の商圏を把握して活用することで、既存業態はもちろん新業態の失敗も減らすことができると考えます。データの取得・活用は目的を設定して行いましょう。
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