ニュースと体験から読み解くリテール未来像 #40

未来を創る“見世”:場に合わせる店、場をつくる店⑤

前回の記事:
小売業の商圏分析に向けた「データ取得方法」の実際:場に合わせる店、場を作る店④
本連載では、ここ数回にわたって「場に合わせる店、場をつくる店」というテーマで、小売業のあり方について書いてきました。前回 は、「場に合わせる店」についての考え方・分析手法などを紹介しました。今回は、「場をつくる店」がテーマです。
 

「店(みせ)」の由来は、「見世棚(みせだな)」


 「店(みせ)」という言葉は、「見世棚(みせだな)」が変化したものです。平安末期から商品を陳列して客に見せるものとして、「見世棚」という言葉が使われるようになりました。

 「世界大百科事典 第2版(平凡社)」によると、「棚」に変わり「店」という言葉が使われるようになったのは、室町期です。初期の店は、建物から見世棚を外につき出して商品を並べていましたが、戦国期には撤廃して店の内部を開放するという方法がとられました。なお、漢字の「店」は、「一定の空間を占めて商売を行う場所」という意味があります。

 この店という存在は、お客さんに商品を実際に見てもらって、その良し悪しを判断してもらい、購入してもらうという場所です。ただ本当に、店は商品を「見せ」て売るだけの場所でしょうか? 

 もし単に「見せ」て売るだけの場であれば、インターネット通販やテレビショッピングも同様です。実店舗の強みである手にとって細かいところまで見られること、肌触りや匂いも感じられることなどを表現するには、「見せ」るという言葉だけでは足りない気がします。

 そこで筆者は「見世」という言葉は、世界観を見せるというイメージを持っていると思います。店の経営者が表現したい世界観が表れて、それに共感する人が目的地として訪れる店こそ「場をつくる店」と言えるのではないでしょうか。
 

「現代における見世」を理解できる好例


 今、筆者が一番行ってみたい「見世」は、「未来コンビニ」です。この未来コンビニは、世界三大デザイン賞のひとつである、ドイツのデザインアワード「レッド・ドット・デザイン・アワード」2021年のリテールデザイン部門で、最も優れた革新的なデザインに贈られる最優秀賞「ベスト・オブ・ザ・ベスト」賞を受賞しました。


 
人口1000人の村、徳島・木頭の「未来コンビニ」国際デザインアワード2冠達成!ドイツ建築デザインアワード「ICONIC AWARDS 2021」にて「Winner」受賞!

 未来コンビニがあるのは、人口が約1000人で65歳以上が人口の過半数を占める限界集落、徳島県木頭地区です。その中でも店舗のある北川集落は居住人口が約200人で、商店がないばかりか、最寄りのスーパーまで車で1時間もかかるような場所です。

 そうした中、2020年4月、未来コンビニは地元の人々の買物環境の改善を目指すと同時に、この地で生まれ育った子どもたちが多様な人生や感性に触れ合い、未来への刺激を受けられる場となるようにとの想いから名付けられて、出店しました。

 通り道に過ぎなかった場所を「訪れるべき場所」に生まれ変わらせ、訪れる人と地域を繋ぎ、木頭地区の未来を紡ぐ。この未来コンビニの取り組みは、日本において増加し続ける過疎化・高齢化など、地方が抱える課題に対する挑戦でもあるのです。
 

 本連載37回で書いたように、コンビニエンスストアは半径500m以内に3000人以上の昼間または夜間人口があり、周囲に競合店がなければ、出店可能と判断され店舗を増やしてきました。商圏人口3000人のうち1/4以上が、毎日来店すれば成立するビジネスモデルです。

 北川集落の200人はもちろん、木頭地区1000人でも普通のコンビニは成り立ちません。つまり「場に合わせる店」としては、成立しないのです。
 
人口1000人の村、徳島・木頭の「未来コンビニ」国際デザインアワード2冠達成!ドイツ建築デザインアワード「ICONIC AWARDS 2021」にて「Winner」受賞!

 未来コンビニが成功するためには、「訪れるべき場所」として日本全国そして世界から認知される必要があります。その第一歩として、世界的なデザイン賞を獲ったことの意味は大きいでしょう。

 この未来コンビニについては、連載の趣旨(実際に筆者が訪問した事例をレポートする)もあり、実際に体験してから改めて取り上げたいと考えています。

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