関西発・地方創生とマーケティング #31後編

NIPPONIAに泊まる目的をつくる NOTE代表藤原岳史

前回の記事:
古い日本家屋を人気ホテルに。リソースをデジタルで繋いで地方を活性化 NOTE代表 藤原岳史
 コロナ禍で観光業界は厳しい状況が続いています。そのなかでも、そこまで大きな影響を受けずに運営しているという「NIPPONIA」。「郷(さと)にいること」というコンセプトの、日本の原風景を体感する滞在施設です。前編では、地元の活性化のために前職のIT業界での経験にヒントを得て、古民家を活用したまちづくり事業に取り組むことになった背景を聞きました。そして後編では、高価格でもお客さまが泊まりに来る仕組みと、コロナ禍での生活の変化について伺います(前編はこちら)。
 

そこに何があるのか

 人はなぜ旅に出るのでしょう。その目的は様々ですが、「非日常を味わいたいから」と答える人は多いようです。でも、「何のために非日常を味わいたいのか」と尋ねても、その先にあるものについて明確に答えられる人はなかなかいません。

 ところで、藤原さんが事業に取り組む際に意識しているのはホテル単体ではなく、そのエリア全体に集客することだそうです。地域の文化、歴史の一部を感じられることを強みにしたいと語ります。

 ただ、どこの町でも成功するのかと言うと、そうではないようです。どの地域を選択するかが重要で、その判断基準は「歴史とストーリーがあるかどうか」だと言います。

 例えば、「1000年続く祭りのある町」。とても歴史のあるお祭りですが、意外と町の外には知られていません。
 
丹波篠山 春日神社 秋例祭
 祭りを続けていくためにはその担い手が必要ですし、それなりにお金もかかります。昔は庄屋さんなど、地元の有力者が負担していましたが、今はそういうわけにもいきません。
また町の人からすると、あくまで自分たちの祭りであって、外の人に容易に入ってきて欲しくはない、という意識があります。でもその担い手として、一見さんである観光客ではなく、ファンとして毎年参加してくれる人(一日の住民)ならいいと。
こうして、泊まった人が貢献できる地域交流の仕組みが出来上がり、これによって、地方が元気になって、地域の文化の保存にも繋がっています。

 また、たとえばホテルの周辺に紙漉き職人が住んでいて、宿泊者がその仕事をのぞいてみたいと思っても、職人は知らない人にあまり作業場に入ってきてほしくないので、そう簡単に見られるものではありません。
そこで例えばNOTEのように地域に根付くまちづくり事業者が、両者の間にある壁を低くし、そして取り払います。関係性がなければ叶わないところを繋いで、環境を整えることが重要だとして、従来の消費型の「観光」から、人との交流によって生まれる関係人口型による「関光」を目指している事が特徴といえます。
 
紙漉き職人
 そして職人も、宿ができた理由が、その町の文化を残し、住んでいる人の生活を残すためだということを知っているから、宿泊客を受け入れます。

 でも実は、職人も外から来たお客さんとコミュニケーションを取りたいという気持ちがあって、自分の仕事に興味を持って話を聞いてもらい、写真に撮ってもらえれば嬉しいのです。そして交流によってファン化したユーザー(一日の住民)が自分ごとのようにSNSなどで積極的に発信することで、それを見た人が、「私もこういう場所で過ごしてみたい…」「普段会うことのできない人と、思い出に残る体験をしたい…」と、プロモーションになります。

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録