次のECの鍵は「Cross Dimension」にある #03
カタログ通販ビジネス 再浮上の鍵は、スタートアップの成功法則にある【ディノス・セシール 石川森生】
2018/09/04
- 通信販売,
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「Cross Dimension」の本質となる2つのポイント
子どもを歯医者に連れて行くのは大変だ。そもそもイメージが悪い。薬品の匂いがするし、痛いこともされるし、とにかく怖い。だから大事な定期検診に引っ張っていくのも一苦労だ。
そんな中、子どもが喜んで行ってくれる歯医者が隣駅にある。連れていくための説得が必要ない。これは親にとって、大きなインセンティブになる。いつも1カ月先まで予約で埋まっているので、それはそれで頭を悩ませるのだけれど。
さて、歯医者の話から離れて、本題に入りたい。
連載3回目の今回は、過去2回の総括となる、まとめ的な位置づけにしようと思う。
初回は、売上高1000億円を超えるディノス・セシールのカタロ
しかし、カタログ通販業界全体として緩やかなシュリンクが始まっていることはひとつの事実であるし、現代に適合したサービスに形を変えていく必要性があることは間違いない。
よって、導き出される戦略のアウトラインは、日本でもトップクラスの通販インフラとカタログという資産を、先端のテクノロジーを活用して「Modernization(現代化)」し、他社に真似できないサービスへと磨き上げるというものである。これを「Cross Dimension(さまざまな次元を交わらせる)」と表現した。
2回目となる前回は、消費行動が偶然によってもたらされる意思決定に依存している例を提示し、人がものを買うという判断の前提には複合的なキッカケが必要であると仮説を立てた。
つまり「ZMOT(Zero Moment of Truth)」が示すように、“真実の瞬間”は必ずしも検索から生じるのではなく、もっと手前にある偶然性の高い要因がトリガーになるのだ。そして、その偶然を捉えるためには単一のDimension(次元)では確率論的に低すぎるため、多面的なアプローチを実現するためにも「Cross Dimension」が必要になるとした。
ここまでのところで、Cross Dimensionの本質についてまとめると、以下の異なる少なくとも2つの要素を内包していることになる。
- 自社の戦略的優位をきずく資産の価値を最大化させるために、過去の成功・慣習・業界などにとらわれず、様々な掛け合わせを試みること
- 戦略的に“偶然”を捉えるための仕組みを構築すること
①の前提となる自社の優位性を見つける方法として、偉大なる先人たちが様々なフレームワークを開発している。
3Cや4P、VSPRO、VRIOなどを駆使して(しなくてもいいが)、顧客に一番“刺さる”商材やサービス、それらが提供する体験価値を定義する。
そして重要なことは、それらを生活者目線で見つめ直し、現時点で優れている点と、より理想的な「少し先の未来」を空想することである。
このアプローチは、私が長く身を置いてきたスタートアップ業界における初期のサービス設計思想そのものである。それは、掃除機で有名なダイソンの創業者であるジェームス・ダイソンが「イノベーションは生活の中のセクシーじゃないところで起こる」と表現されている考えにも通ずる。
つまり、全く新しいサービスをゼロから立ち上げるだけではなく、既存のサービスにおける少しの不便や不満を改善することからイノベーションが始まるのだ。
例えば、駐車場にイノベーションを起こそうとするスタートアップのサービスを見てみよう。彼らは既存の駐車場を、「自動車による目的地への移動を完結させるに不可欠なサービス」と捉える一方で、「目的地の近くに着いたのに空いている駐車場が見つからない」という、しばしば起こるセクシーではない部分に着目した。
そして、個人や企業が保有する駐車場の「空き時間」を集め、事前予約とオンラインでの決済を可能とするサービスを立ち上げた。これにより、生活者は「確実」に「安く」駐車場を利用する機会を手にすることができるようになりつつある。