ニュースと体験から読み解くリテール未来像 #49

和菓子がコンビニのレジ横にある理由とは? 「レジ周り」は最強のリテールメディアになる

前回の記事:
米国マンハッタンの超人気店舗で、レジ待ちが無くなった仕組み「セルフレジを軽視してはならない」
 

情報メディア化した店舗の強みは、五感での訴求


 小売業は、物である商品と人である生活者が出会う「場」を提供する事業です。その「場」は、商品販売のための実店舗とすることが一般的です。商品を店舗に陳列して、その商品を売った収益で仕入と家賃を賄うわけです。
   
 近年、ICTの発達に伴い、体験型店舗「b8ta」のように必ずしも販売を目的としない店舗が生まれています。このような店舗は、情報メディア化した店舗とも言えるでしょう。
参考:https://agenda-note.com/retail/detail/id=4539

 情報メディアとは、人間の情報伝達,コミュニケーションを媒介するもの(図書館情報学用語辞典)です。「3Vの法則」があります。話し手が聞き手に与える影響は、言語(Verbal)情報7%・聴覚(Vocal)情報38%・視覚(Visual)情報55%の割合だという考え方です。これに加えて、「焼きたて」「挽きたて」などの臭覚情報、試食による味覚情報を合わせた五感で商品を訴求できる点が実店舗の強みのひとつです。

 b8ta渋谷店に行くと、試飲・試食系のイベントが頻繁に行われています。商品を「知ってもらう」ことが目的である場合、有効な手段と言えるでしょう。購買の候補に入れてもらうためには、まず知ってもらう必要がありますし、深い体験をするほど候補から選ばれる確率も上がります。繰り返し選ばれるためには、そもそもの商品力に加えて、初体験時の印象が左右することも多いものです。
 

「レジ横」とついで買い


 メディア化した店舗の目的が商品を買ってもらうことである時、店内で最も価値の高い場所は「レジの横」です。スーパー、コンビニ、ドラッグストアなどの最寄り品を扱う小売業の場合、多くの来店客の目に触れる上に滞在時間が長い場所であり、現金やカードであれば財布を開いた状態である「ついで買い」が最も発生しやすい場所です。以前ほどではありませんが、多くのコンビニエンスストアのレジ横には和菓子が置かれています。

 諸説ありますが、筆者は次の2点の理由があると考えます。
 
  1. 和菓子を製造しているメーカーの多くが製パンメーカーであるため、普通に陳列すると調理パンと冷蔵什器にあるデザートの間に和菓子を陳列することになる。
  2. 和菓子の主要顧客である高齢者はパンの購買頻度が高くない。単身世帯の統計を見ると、若い年代ほど外食支出が多く(34歳以下 年186,302円、35~59歳 年130,646円、60歳以上 年58,052円)、主食への支出が少ない。主食である食パンなどに関しては高年齢世帯の支出が多い傾向にあるが、数日食べられる食パンよりも買上げ頻度が多い調理パンの購入は少ない。
  
※政府統計家計調査<品目分類>1世帯当たり年間の品目別支出金額より筆者作表

 そこで和菓子の主要顧客層が調理パンの隣で得られない認知を獲得するために、レジ横に並べているものと考えます。オフィス街など高齢者比率の低い店舗ではレジ横に和菓子以外を並べていることが多いように見受けます。

 諸説の中には、「決断疲れ」もあります。社会心理学者のロイ・バウマイスターは、衝動買いと血糖値の低さに関連性があるという研究をしています。買物中に商品・販促・価格のトレードオフの決断を繰り返すことで、レジに辿り着く頃には甘いお菓子の衝動買い欲求を抑える意思力がなくなってしまうということです。意思決定の繰り返しが多い滞在時間が長い店舗であれば説得力のある説ですが、コンビニエンスストア来店客の滞在時間が8割方5分以内であることを考えると、コンビニには当てはまりにくい説と考えます。

 コンビニのレジ周りにホットフードがあるのはオペレーションの都合ですが、五感を刺激しやすく「ついで買い」を促しやすいことと粗利益率が高いことも重要な要素です。

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