関西発・地方創生とマーケティング #36前編
世界観で話題、低アルコールのクラフトカクテル「koyoi」が2年で成長できた背景【SEAM代表 石根友理恵氏】
起業のきっかけは、父親との突然の別れ
石根 友理恵 氏
昨年11月、私はフジテレビ系列で放送されている、7つのルールで話題の女性の人生を映し出すドキュメントバラエティ『セブンルール』を見ていました。登場していた女性の背景に、大阪梅田の風景が映り込んでいたこともあり、興味深く見ていたのですが、その女性が非常に面白そうな人だったので、ぜひ一度、話を聞きたいと知人を通じて紹介してもらいました。
その女性は、低アルコールのクラフトカクテル「koyoi(コヨイ)」を扱うSEAM代表の石根友理恵氏です。「koyoi」は、Webサイトでパーソナライズ診断を行い、好みに合わせて数十種類の多種多様なラインナップの中からナチュラル製法のクラフトカクテルを提供します。同社は前年比250%成長と業績も好調で、過去2回にわたって1億4千万円を調達している注目企業です。今回は、その代表である石根氏の「koyoi」にかける想いと戦略についてお伝えします。
まずは、起業の背景から聞きました。石根さんの、大学卒業時の2011年頃の目標は、「30歳になったときに自分の名前で仕事をすること」だったそうです。そして、その目標を達成するためには、新卒でどういう経験を積めばそこにたどり着けるのかを考えた結果、内定が取れていた商社や食品メーカーではなく、若手にも裁量権があったIT企業を選択します。
ただ、その時点では起業を視野にいれていたわけではありません。実際に、起業したきっかけは、突然父親が亡くなったことだそうです。そのとき、石根さんは「人はいつ死ぬか分からない」と思い、自分が死んだときに残せることは「事業」と「組織」だと考え、起業を決意したそうです。
なぜ、低アルコールカクテルを選んだのか
では、なぜアルコール度数3%程度の低アルコールカクテルなのか。これには、石根さんの「想い」と「戦略」の2つが隠されているようです。
まず、石根さんは想いについて、「父親がアルコールに依存気味だったこともあり、お酒に対してネガティブな気持ちがあります。その一方で、自分を緊張状態から解放してくれて、ポジティブな方向に持っていってくれるという必要な存在でもあります。そのため、そのネガティブな面を無くし、すぐに酔っぱらってしまうのではなく、ずっと楽しい気分でいることができる、そんな低アルコールカクテルを広めたいんです」と話します。
次に、戦略については、「日本のアルコール市場が縮小している状況で伸びているのがリキュールでした。その中でも、強アルコールと低アルコールでは、後者が伸びていて、特に30代の若者が好んで飲んでいます。また、コロナ禍で人々の価値観が変わり、職場の人と一緒に飲みにいかなくてもしっかりと仕事ができるということが分かり、過度に飲まずに、家で心地よく楽しむ人が増えてきたという背景もあります。そして、この傾向は米国や中国、アジア圏でも同じです。白酒を代表とする強アルコールが伝統的だった中国でも若者の間で低アルコールニーズが高まっていて、今後はアジアを含めたグローバルシフトも考えています」と語ります。
さらに続けて、「低アルコール市場ではサントリーの『ほろよい』がほぼ一強状態です。大手アルコール飲料メーカーでは、低アルコールは多々商品が発売されていますが、基本的にはよくお酒を飲む方がメインのターゲットではないかと考えています。そこで今、『koyoi』のような低アルコールカクテルの短期間でのブランド化が、スタートアップ企業のやるべきことだと考えました」