ニュースと体験から読み解くリテール未来像 #50

ChatGPT時代の生成AIは、小売業のビジネスをどう変えるのか?

 

AIチャットボットが小売業に与える変化と鍵になるデータ分析


 高性能なAIチャットボットの導入により、24時間対応のカスタマーサービスが実現します。休むことなく、24時間365日、顧客からの問い合わせに対応できることにより、顧客はいつでも自分の都合の良い時間にサポートを受けられます。電話などと違って待たずにサポートを受けることができ、カスタマーサポート側の負荷も軽減できることからメリットは大きく、活用ハードルも低いです。
 
 連載43回(商業施設の案内所もDX。AI導入でスタッフ負荷を40%に軽減、対応数も増加:https://agenda-note.com/retail/detail/id=4731 )で書いたように、人とAIを組み合わせることで、人だけではできなかった対応が可能になると同時に、人がモチベーションを持って取り組める業務に集中することができるため、離職防止や採用コスト抑制というメリットもあります。この回で紹介した「AIさくらさん」は現時点で使い方次第で素晴らしいソリューションですが、LLMを組み合わせることでより高度な対応が期待できるでしょう。

 さらに、データを収集・活用できるメリットがあります。AIチャットボットが顧客との対話から得られるデータを収集分析することで、顧客の嗜好や行動パターンを理解できます。これらのデータと購買履歴や問い合わせ履歴を掛け合わせることで、よりパーソナライズされた顧客対応が実現でき、顧客体験を向上させることができます。より効果的なマーケティング戦略を策定したり、新しい商品やサービスを開発したりすることが可能になるわけです。
   
※GPT4にShow Meプラグインを入れることで簡単にチャート図等を作成できる。この図は、原稿を抜粋してGPT4に書かせたもの。
 

店舗運営、サプライチェーンのデータ活用


 データ分析は、AI活用の鍵になります。データの蓄積・統合があまり出来ていない小売業であっても、過去の販売データはあります。販売データと在庫データをAI分析することで、需要予測を行うことができます。これにより、適切な在庫量を維持し、過剰在庫や在庫切れを防ぐことが可能になります。

 これに売価情報を組み合わせることで、価格弾力性(商品価格が変動した際に需要、あるいは供給がどのくらいの割合で増減するか示した数値)を分析した最適な価格設定を行うことができます。価格弾力性分析の精度が上がると、特売時の売価ごとの売上数予測などにも活用でき、機会損失と過剰在庫を削減できます。ハイ&ロー型で特売の多いタイプの最寄品小売業の悩みが軽減するのです。

 時間帯別の売上高や納品データに加えて、シフトの状況をデータに組み入れることで、時間帯別の必要なスキルに合わせたワークスケジュール作成が可能になります。例えば、ドラッグストアやGMSでメイク化粧品の売上が多い曜日・時間帯には、専門の担当者を常駐させるというケースが考えられます。こういった活用により、人に業務をつけるのではなく、その時に必要な業務に必要な分だけ必要な人をつけるという適所適材の業務になっていきます。

 データ分析のメリットは、店舗運営に限りません。小売業が卸業者やメーカーと売上情報や在庫情報を共有することで、サプライチェーン全体が改善される可能性があります。売上情報と在庫情報を共有することで、卸業者やメーカーは需要予測をより正確に行うことができます。これにより、過剰在庫や在庫切れを防ぎ、在庫コストを削減することが可能になります。

 また、売上情報を基に、メーカーは生産計画を最適化することができるしょう。生産過剰や生産不足を防ぎ、生産効率を向上させることが可能になります。よくある話ですが、相互協力の取組みをしている小売業に優先的に品薄な人気商品を供給してくれるというケースも起こるでしょう。

 一方で、本質はそこではなく、サプライチェーン全体の生産性を高めることは、生活者にとっても価格、品質、サービスの向上という形で還元されるため、顧客満足度の向上につながることにあります。このテーマについては、継続的に考えていきましょう。
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