ニュースと体験から読み解くリテール未来像 #51

生成AIの普及で「EC売上の半分がチャットボットから」という未来が来るかもしれない

前回の記事:
ChatGPT時代の生成AIは、小売業のビジネスをどう変えるのか?
 

顧客に対してのパーソナライズ


 (前編は、こちら)AIのLLM(大規模言語モデル)は大量のデータを高速に処理し、パターンを見つけ出す能力を持っています。小売業は、会員顧客の購買履歴、閲覧履歴、クリック履歴などのデータをAIに供給し、顧客の行動や嗜好を分析できます。これにより、一人ひとりの顧客が興味を持つ可能性の高い商品を推奨できるわけです。



 また、顧客の反応や行動を分析し、どのマーケティングメッセージが最も効果的であるかを判断できます。例えば、ある会員に対して「値引き」と「ポイント付与」でどちらの反応が良いか、メールやアプリプッシュをどの時間帯に送ると開封率が高まるかなどが分かります。

 この辺りは、既存のMA(マーケティングオートメーション)ツールを使いこなせていない企業の助けになる可能性があります。現状でもパーソナライズを押し出したツールは多数ありますが、実情は顧客をいくつかのパターンに分岐させてシナリオをつくっているのが精一杯であるケースが多いです。また、ビジネスに対する理解が浅い担当者が効果的なシナリオを作成できないため、成果を出せないという相談を筆者はときどき受けます。

 現在でも、オウンドメディアやECサイトのレイアウト・表示内容を、個々の顧客の嗜好に合わせて自動でカスタマイズできるサービスがあります。AIのさらなる普及で、それらの機能が当たり前になるでしょう。自動化した結果もフィードバックされて、表示内容を変化させ続けることにより、CVR(Webサイト訪問者の中で購入や問い合わせなど、最終成果に至った件数の割合。小売の最終成果は、当然売上なので購入)を向上できる可能性があります。

 こうしたパーソナライズの結果として、前編で述べたチャットボットにつなげることができます。生成AIを活用したチャットボットは単なるFAQツールとは一線を画したものとなり、一人ひとりに合わせた商品提案が可能になります。

 例えば、購入履歴に「鞄」のある顧客からチャットボットで「カバンの傷を目立たなくしたい」という質問が来たとき、適切な補修方法を回答するだけでなく、購入履歴にある鞄の素材・色に合わせた補修クリームやペンを推奨することで、顧客満足を高めると同時に売上を高める機会になります。

 また、鞄用のショルダーベルトについてチャットボットで質問された時は、「○月×日に購入した鞄に適合するベルトは以下の3点です」と対応することも可能です。すでにそういったレベルのAIチャットボットは、海外企業が提供しています。新たなチャットボットでは、テキスト(音声)にテキスト(音声)で回答するだけでなく、動画で説明したり、適切な入力フォームを表示したりすることも可能でしょう。

 生成AIの凄まじい進化を考慮すると、近い将来に動画や入力フォームもその場で生成されるような時代が今年か来年にも来てしまう可能性もあります。「生成AI時代、パーソナライズの鍵になるのはチャットボット」ではないかと筆者は考えています。ネット経由売上の半分がチャットボットという業界が出てくる可能性も視野に入れる必要があるでしょう。

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