関西発・地方創生とマーケティング #38

「八代目儀兵衛とセブン-イレブン」「koyoiとスマドリ」。企業間コラボレーションの極意とは?

前回の記事:
データ偏重のマーケ業界に警鐘。データでは分からない消費者を「笑顔」にする大切なこと【大阪大学大学院 松村真宏 教授】
 2023年7月12日から13日にかけて、マーケティングカンファレンス「ネプラス・ユー大阪2023」が開催されました。今回は、八代目儀兵衛 取締役CMOの神徳昭裕氏と、SEAM 代表取締役の石根友理恵氏をスピーカーに迎え、私がモデレーターを務めたセッション「ビジネスをスケールさせるコミュニケーションの極意」のレポートをお届けします。
 

創業200年以上の老舗と社員4人のスタートアップ、対極な2社を紐解く


まずはスピーカーのお二人にプロフィールと事業の紹介をお願いしました。

神徳 八代目儀兵衛は江戸時代から200年以上続く京都の米屋で、8代目にあたる今の代表取締役社長の橋本が2006年に設立した会社です。全体の売上は20億円ほど、通販事業が半分ぐらいで、その他は京都の祇園と東京の銀座にある直営の飲食事業と卸事業になります。ミシュランの星付きレストランやホテルなど、全国で約900店舗に採用いただいているほか、最近ではソリューション事業として他社の「ごはん品質」を向上する事業にも力を入れています。
  

石根 私はサイバーエージェントを経て2017年にSEAMを創業しました。社内メンバーは4人で事業領域はアルコール事業の中でも低アルコールに特化したBtoCです。ファーストブランドの「koyoi」というボトルカクテルをECメインで販売しています。現在は、新しい低アルスパークリングワインブランド「AWANOHI」の開発も仕込んでいます。

さらにBtoBの低アルコールのトレンドをつくるプロデュースをしていて、自治体やホテル、メーカーと取引きしています。
  

このセッションでは「ビジネスをスケールさせるコミュニケーションの極意」というタイトルで、まずは社外編としてBtoCに加え、BtoB、企業コラボレーションに関するコミュニケーションを深掘りします。

その後、社内編では、神徳さんには200年以上続く老舗企業のオーナー社長である代表 橋本氏とどのようにコミュニケーションをとって自分のやるべきことを実現しているのか、石根さんには少数精鋭の経営ならではの権限委譲のバランスやスタッフとのコミュニケーションの取り方について伺います。
 

相手に提供できる価値は何かを常に考える


まず、社外とのコミュニケーションについて神徳さんに伺いました。

神徳 セブン-イレブンのおにぎり監修に2023年3月から取り組んでいます。我々が仕入れられるお米の量は限られていて、セブン-イレブン全体には到底供給できないので、同社が仕入れている約70種類のお米から、当社代表の橋本がおにぎりに合うものを選定し、さらに精米の仕方も教えています。

実は、お米は同じ玄米でも精米の仕方で大きく変わるんです。また、単品でも十分美味しいのですが、異なる種類のお米をブレンドすることで味が立体的な美味しさになります。ワインやコーヒーもブレンドしますが、お米も同じようにブレンドすることで、美味しさ、甘さが引き出せるんです。
 
八代目儀兵衛 取締役CMO
神徳 昭裕 氏

新卒でカタログ通販のニッセンに入社。黎明期のECサイト立ち上げを経験。モバイルEC責任者としてサイト運営、アプリ開発を担当。2016年WILLERに入社。国内旅行・バス予約サイトのEC責任者。2019年江戸寛政から続く京都の老舗米屋「八代目儀兵衛」のCMOに就任。2021年取締役に就任。

そして重要なのは、炊飯と成形です。洗米後の浸水時間、火力、水の硬度など、いろいろな点にこだわると炊きあがりのごはんの味が変わります。成形というのは、おにぎりをつくる形や握り方のことです。粒立ちを意識して、ちょっと弱く握ってもらっています。つまり、同社が調達しているお米は変えず、つくり方を変えることで、新しいおにぎりができたということです。
  

  

神徳 この取り組みのきっかけは、2020年11月にセブン-イレブン・ジャパン代表取締役社長の永松文彦氏にご面談の機会を頂いたことから始まりました。以前私が勤務していた総合通販のニッセンがセブン&アイ・ホールディングスのグループに入り、その時に副社長として来られていたのが永松さんでした。八代目儀兵衛に入社した転職の挨拶に、当社のお米ギフトをお渡ししたところ、お米の美味しさを高く評価頂きました。

もちろん、元部下である私が持ってきたお米が美味しいからといって、急に仕事が決まるわけではありません。その後、2021年8月に代表の橋本を連れて、改めて八代目儀兵衛の事業や経営理念を熱く語ってもらいました。また、ちょうど同じタイミングで当社の問い合わせフォームに、セブン-イレブンのお米の調達担当の方から「お米について勉強したい」という連絡が入りました。そんな偶然も重なり、共同プロジェクトを打診し、3カ月後の2021年11月にプロジェクトが始まりました。

今回の監修のきっかけについて考えてみると、縁や人脈、タイミングがとても重要だと思いました。私は永松さんと出会って10年ほどになりますが、10年後にこのような協業が生まれることになるとは想像もしていませんでした。

あとは相手に提供できる価値が何か、我々のような年商20億円の会社が5兆円の会社に提供できる価値は何かを常に意識していました。それから、スピード感も大切です。最初に会ったときからまたすぐに会いに行ったことが、今回の監修につながったと思います。
  

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