ニュースと体験から読み解くリテール未来像 #56
イオンによるツルハ買収:ドラッグストア集約時代、M&Aに積極的な企業とそうでない企業の違い
2024/03/07
イオン傘下のウエルシアホールディングスとツルハホールディングスが2027年をめどに経営統合する協議を始めました。イオンホールディングスが主導でツルハホールディングスの買収を行い、イオンの子会社化を進めて、その下で売上高がツルハホールディングスを上回るウエルシアホールディングスを完全子会社化する形です。詳細については、皆さんご存知の通りです。今回は、ドラッグストアによるM&Aのメリットについて考えていきたいと思います。まずは、その前編になります。
大手コンサルがするドラッグストアへの質問
筆者は大手コンサルティングファームなどから、スポットコンサルティング案件を受けています。その中でも、特に多いのがドラッグストアの全体ビジネスモデルや各部門に関する質問です。それに付随して、各企業の特徴と可能性についても、多くの問い合わせがあります。私は守秘義務に抵触しない範囲で、自身の知見と各専門誌連載などを通じて得た一般知識を組み合わせて回答しています。
彼らの質問の目的は、小売企業の経営戦略部門、ファンドや投資会社の依頼による調査だと推測しています。書物や記事などの情報ではわからないことや曖昧なことをプロフェッショナルに直接聴くことで精度を高めつつ、時間を買っているのです。
ちなみに次に多いのが、ITベンダーやコンサルティング会社が考えた小売業や薬局を対象とした新規事業アイデアの壁打ち相手です。こちらのほうが前者の案件(知識を使う仕事)よりも、知恵を使うので面白い仕事です。
今回はドラッグストアがM&Aを行う場合のメリットについて、一般の方々にもわかりやすく、浅くではありますが解説したいと思います。年配者が昔話ばかりすることはしばしば自身が進歩していない証拠とされます。そのため筆者は通常、昔話を控えるようにしています。しかし、今回は前提条件として過去の話をする必要がありますので、まずは昔話から始めさせていただきます。
M&A後に発生するプロジェクト
筆者は20代でドラッグストアを経営する会社を設立しました。2007年に、新卒で入社し退職した中堅ドラッグストアであるセイジョーに調剤事業部課長として戻りました。その後は、事業推進管理室で、特命的に新規案件や業務効率化、コスト管理を担いながら、他企業とのアライアンスも進めました。
その後、ココカラファインが4つの同規模の販売会社(セガミメディクス、セイジョー、ジップドラッグ、ライフォート)のM&Aで誕生しました。統合後は、システムや業務の統合が必要となり、私は様々なプロジェクトにメンバーとして参加しました。
プロジェクトリーダーを務めたのは、マニュアル統合プロジェクトです。販売会社4社の方法を参考にしながら、店舗の作業マニュアルに関する全てを新しく最も効率的かつ企業理念に合う作業手順や業務基準を作成する仕事でした。その粒度としては、釣り銭の丁寧かつ効率的な渡し方から金銭の計数方法、雑巾の絞り方、品出しの際の手の使い方まで、細かい部分を含んでいました。
その他、主体として業務を担ったり、事務局を務めていたりしたのが次の業務です。
- ・営業責任を持つブロック長(エリアマネージャー)と異なり、顧客視点で社内を忖度しないスーパーバイザー制度の策定と内部監査室連携、店舗メンテナンス手法の構築と必要間接材統一など
・持株会社経営陣と4販社社長による毎月の社長会事務局
・買い物カゴ・カート、レジバッグ、レジロールなどと言った店舗備品の統一と価格交渉、品質管理
・床清掃、廃棄物収集業者の取りまとめ、統一とコスト削減及び品質向上
・店舗設計部門、店舗開発部門の各社の知見共有と統一化に関する会議体の主催とコストリダクション方針決定
・各社事業推進管理室長を集めての会議と方針統一
メンバーとして次のプロジェクトにも参加していました。
- ・3つあった基幹システムの統合に関するプロジェクト
・営業管理の指針となる新情報系システムプロジェクト
・物流プロジェクト
・プライベートブランド商品開発会議
・改正省エネ法プロジェクト
これらの経験を踏まえ、ドラッグストアのM&Aに関する影響と効果について深く理解しています。
本稿では、細部にまで言及はしませんが、ドラッグストア企業が経営統合し、事業規模を拡大する際のメリット、メリットにならない点。そして規模の拡大がメリットをもたらすにも関わらず、統合が進まず、時間がかかる理由について大筋を語っていきたいと思います。