ニュースと体験から読み解くリテール未来像 #57

ドラッグストア集約時代を考える:巨大化のメリットは単価が高く、販売数量の少ない商品にある

前回の記事:
イオンによるツルハ買収:ドラッグストア集約時代、M&Aに積極的な企業とそうでない企業の違い
 2019年6月1日、ドラッグストア業界で大きなニュースがありました。当時ドラッグストア業界7位のココカラファインが6位のスギホールディングスとの経営統合協議を開始することを発表したのです。これは、スギホールディングスからの申し入れに基づき合意したものです。

 一方、ココカラファインは同年4月26日に業界5位のマツモトキヨシホールディングスとの資本業務提携検討を発表しており、6月5日には経営統合も含めた協議を開始したことを公表しました。

 当時、どちらの企業がココカラファインと統合するのかを多くの方から聞かれました。真剣な質問というよりも、「大谷選手の結婚相手は誰だろうか?」という興味本位のものが多かった印象です。社内事情は知っていますが、ここでは統合効果について客観的な観点で記載します。
 

ドラッグストアの出店エリアと物流効率


 まずは出店エリアについてです。「A社とB社では出店エリアの被りが少ないため、経営統合の相手としてふさわしい」という記事を多く目にします。

 宿泊業などサービス品質とブランド想起を結びつけやすく店舗密度が薄い業種や、金融業など店舗網が広がることで顧客利便性が高まる業種であれば、それは正しい見解です。

 しかし、この考え方はドラッグストアには当てはまりません。宿泊業や金融業などとは顧客利便性や生活者のニーズが異なるのです。

 生活者にとって「どのドラッグストアを利用するか」を選択する最大の理由は「家や職場から近い」に尽きます。次に「価格の安さ」「品揃え」と続きます。これまで、さまざまな調査を行ってきましたが、結果は必ずこうなります。

 なぜかというと、小売は「物(商品)と人(生活者)を繋ぐ場」であるからです。100m先にA店とB店、500m先にC店、800m先にD店があった場合、いずれも同じような品揃え・価格であれば、人は自分と距離が近いA店とB店に行きます。同様にD店の近くに住んでいる人は、過去によほど嫌な体験がない限り、D店に最も多く行きます。

 そのため経営を統合して看板が変わったところでA店、B店、C店、D店のいずれの売上もさほど変わりません。

 食品スーパーマーケットであれば、生鮮品の産地や鮮度、惣菜の味付けやサイズなど商品のばらつきが大きいので、こうはなりません。ドラッグストアの品揃えは各社それほど大きな差異がなく、価格競争が激しく価格差もさほど大きくないので、「近い」ということがより大きな価値になります。

 さて、ドラッグストアに限らず、小売業の経営統合で確実に生産性が上がるのは「物流効率」です。ココカラファインとマツモトキヨシHDは、北海道から沖縄まで出店している全国チェーンでした。一方、スギHDは本拠地愛知県を中心とした中部と大都市圏である関東・関西に出店するという出店戦略でした(現在は、当時よりも出店エリアを拡大しています)。
 

 この頃、物流効率が良い出店をしているのはスギHDでした。1つの物流センターが担当する店舗数が充足している上に、トラックの走行距離も短くて済みますので効率的でした。センター経由の生鮮食品物流も地域によっては可能です。つまり、物流が効率化された状態であったスギHDにとっては、統合による物流の改善余地は他の2社よりも低い状態でした。

 一方のココカラファイン、マツモトキヨシHDでは関東・関西・東海以外の店舗数が中途半端な状態でした。この2社が統合した場合、ココカラファインの北海道地区やマツモトキヨシの中国・四国地区をはじめとした店舗網が薄い地区の物流が効率化できたのです。

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