ニュースと体験から読み解くリテール未来像 #57

ドラッグストア集約時代を考える:巨大化のメリットは単価が高く、販売数量の少ない商品にある

 

仕入価格交渉余地の小さな紙製品と統合効果の大きな化粧品


 筆者が昔、販社統合に関連して様々な業務(前回参照)をしてきた中で、最も大きな金銭的効果を感じたのは、基幹システム統合と仕入れ価格の低減です。

 しかしながら、当時年商600億円のセイジョーと800億円のセガミメディクスがココカラファインホールディングスとして統合した時に比較すると、3年後1700億円のココカラファインホールディングスと1000億円のアライドハーツホールディングスとの統合による仕入価格低減効果は小さい印象でした。

 サイズが大きく、単価が低く数が売れる商品の代表は、ティッシュペーパーやトイレットペーパー、キッチンタオルといった紙製品です。これらの物流は紙製品を扱う卸から店舗への直送になることが多いです。店舗あたりの配送する嵩(かさ)が大きく、紙製品だけを運んでも積載効率が十分であるため、小売業の物流センターを経由する方が全体的に非効率となるのです。

 こういった商品は小売業における企業全体の売上規模や店舗数の影響を受けにくい商品です。筆者が単店舗のドラッグストアを経営していた時も、1000店舗超の大手と仕入価格に大差はありませんでした。

 多くのドラッグストアで売上と集客の中心になる商品は、洗剤、シャンプーなど生活用品です。これら単品の売上数量がある程度あり、消費期限が長い商品の場合、数千億円のチェーン企業と小規模企業では仕入価格が大きく違います。ところが、前者が倍の規模になったところで定番販売する場合の価格交渉余地はあまり大きくありません。年商数千億円になる過程でメーカー・卸に可能な卸売価格下限近くに達してしまうのです。
 

 一方、利益の核となる商品は、医薬品と化粧品です。単品の単価が高く、SKUが多い反面、1店舗あたりの単品売上数量の小さなカテゴリーは化粧品です。食品ほど期限管理がタイトではなく、メイク商品などは単品の年間売上個数が数個の商品も棚に並んでいます。

 わかりやすくするため単純計算で例えます。3000円のファンデーションが年に4個売れることで年間の単品売上高は1万2000円になります。こういった商品が5,000SKUあると年間6000万円の売上になります。100店舗のチェーンなら60億円、1500店舗なら900億円です。

 この商品の年間販売個数は100店舗のチェーンで400個、1500店舗で6000個、3,000店舗なら1万2000個です。メーカーの立場からすると、3000円の商品群が年間で1万2000個も販売するチェーン店の棚に並ぶかどうか、店内の良い場所に置かれるかは非常に重要な問題です。したがって、価格交渉の余地が大きいですし、取扱い、配荷、販売の各段階でのリベート交渉の余地もあります。

 経営統合による物流効率の向上や仕入価格の低減は、ドラッグストア業界における競争力の源泉となります。特に、単価が高く販売数量の少ない商品、例えば化粧品などの取り扱いにおいて、大きなメリットが見込めます。このような商品は顧客の選択肢を広げるだけでなく、企業収益にも大きく寄与します。

 統合は単なる規模の拡大ではなく、効率的な物流システム構築、価格交渉力の強化に繋がります。ここで得た収益を従業員還元や顧客サービスの品質向上に繋げれば、地域社会への貢献として生活者にとってもメリットのある形になります。

 こうした果実を株主や経営陣が独占するのではなく、そのような形に繋げることができると真に尊敬される大企業になるのではないでしょうか。
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