関西発・地方創生とマーケティング #39
ターゲットは若者なのに値段は1泊15万円。SNSで独自の価値を伝える「Nazuna京都」の正体
「Nazuna京都」の徹底したターゲティング
ブランドターゲット、つまりNAZUNAが追い求めるブランド像は、「Nazuna京都」のサービスに共感する層です。「星のや」や「ふふ」などの高級帯の宿泊施設のように、そのブランドの世界観に共感する層を狙うのではありません。
特に「ふふ」の顧客層は50代を中心に40代以上のお客さまですが、「Nazuna京都」の場合は高級旅館でありながら、20代や30代をターゲットにしています。当初、周りの宿泊業者は「若い人は5万円も払わない」という感覚だったそうですが、渡邊氏は自信があったと言います。
「竹」をテーマにした内装・インテリアで彩られている、2 人まで宿泊できる半露天風呂付きツインルーム
リビングからガラス越しに見える空間には半露天風呂が備えられている
コロナ禍では高年齢層の移動が減った一方で、若者は比較的活発に動いていました。若者の消費動向が変わったのもその頃です。すなわち、ある程度貯めたお金を一気に使うようになったタイミングだったのです。旅行に行ける機会も限られ、記念日など誰かのためにお金を使うなど、一度に使う消費額が増えました。
そのような経緯もあり、Nazuna 京都の価格も開業当初は1泊5万円程度でしたが、現在は平均すると10万円で、繁忙期には15万円にまで上昇します。このような価格設定でも高稼働を維持できているそうです。
コロナ禍が明け、インバウンド需要も取り込んで、客室単価を上げていかなければならない状況でも、あくまでターゲットは20代や30代のカップルです。Nazuna京都は、この層に刺さるコンテンツを数多く用意しています。そのひとつが、お客さまの目の前で、茶葉をブレンドする「ムレスナティー」です。若者は自分のための特別なサービスを好む傾向にありますし、アメニティやレストランサービスにおける見せ方や提供の仕方も、どちらかというと20代や30代が写真を撮りたくなるようなものにしています。女性は男性とはまったく違うところに感動するので、複数人で行くときと、ひとりで行くときとは得られる情報が違います。
「ムレスナティー」の様子
このような価値は、OTA(オンライン旅行代理店)だけでは伝えきれません。そこで活用するのがSNSで、特にInstagramのリールを中心とした動画コンテンツです。その結果、自社サイトからの予約率は45%と、一般的な宿泊業と比べても高いです。
Instagramのリールを活用した動画コンテンツ の一例
そんな渡邊氏にとってのマーケティングは「お客さまのことを本気で考えているかどうか、すなわち、お客さま目線になることができているか」だと言います。さまざまなアイデアは、基本的に渡邊氏が20代や30代の人から直接話を聞き、いま何が流行っているのかを常にキャッチアップして研究することで生まれているそうです。
たとえば、自分が1泊10万円の高級旅館に行ったときにも、お客さま、特に若い人は何に感動するのか、細いところまで見るそうです。女性は男性とはまったく違うところに感動するので、複数人で行くとひとりで行くときとは得られる情報が違います。
私の所属会社が経営するウェスティン都ホテル京都でも、20代や30代の人がご利用されるのを何度も目にしていました。とはいえ、あくまで目にする程度で、多くのお客さまの年齢は高めです。その点、「Nazuna京都」はターゲットを絞り、その層に喜ばれるサービスを徹底して追及するという戦略をとっています。
あくまで私の感覚ですが、「ターゲットを絞る」という考え方がないホテルが多い中で、マーケティングの基本的な考え方であるターゲティングが出来ていることが人気につながっているのだと思います。もちろんホテルの規模や形態にもよりますが、ターゲットを絞ることは大事だとあらためて思いました。ターゲットに合わせたサービスを追求した結果、そこから外れる人に来ていただいても、もちろんウェルカムというスタンスでいいのだと思います。
※後編 採用倍率20倍、“おせっかい”でお客さまを虜にするホテル「Nazuna京都」の裏側 に続く
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