リテールメディアコンソーシアム #03

日本の「リテールメディア」の実態と可能性とは?【リテールメディアコンソーシアム座談会・中編】

前回の記事:
セブン-イレブン、サントリー、ネスレ日本、ライオン、電通コンサルティングが考えるリテールメディアの現在地【リテールメディアコンソーシアム座談会・前編】
 マーケティング専門Webメディアの「Agenda note」は2023年12月1日、リテールメディアの研究組織「リテールメディアコンソーシアム(Retail Media Consortium)」を設立した。本コンソーシアムは、リテールメディアのあり方を規定し、新たな基準を設定するプラットフォームとして機能することを目指す。そして、日本独自のリテールメディアを定義し、最新事例とその効果の発信などを通して、消費者に新しい価値を提供するリテールメディアの創出を目的とした取り組みとなる。

 今回、リテールメディアをテーマに、リテーラー、メーカー、広告会社でマーケティングやデジタル部門を管掌するサントリー 支社長 リテールAI推進チーム シニアリーダーの中村直人氏、ネスレ日本 常務執行役員 デジタル&Eコマース 本部長 兼 新規ビジネス開発部長の島川基氏、ライオン ビジネス開発センター エクスペリエンスデザイン部長の大村和顕氏、セブン-イレブン・ジャパン マーケティング本部 デジタルサービス部 兼 リテールメディア推進部 総括マネジャーの杉浦克樹氏、電通コンサルティング 代表取締役 社長執行役員/シニアパートナーの八木克全氏の5人が、現状の各社の取り組みや課題、日本と海外の違いなどを語り合う座談会を実施した。

 本稿ではその議論の様子を前編、中編、後編の3回でお届けする。前編では、リテールメディアの定義の曖昧さやコンバージョンの置き方、営業と広告宣伝の考え方の違いに基づく懸念点について議論した。中編では、具体的な事例から、リテールメディアの活用可能性について議論された。
  
(左から)電通コンサルティング 八木克全氏、サントリー 中村直人氏、セブン-イレブン・ジャパン 杉浦克樹氏、ネスレ日本 島川基氏、ライオン 大村和顕氏
 

小売のデータをいかにビジネスに還元するか


杉浦 我々がメーカーさんの営業担当の方に対してセブン‐イレブンのリテールメディアについてご説明すると「配荷率は、変わりますか?」と言われるケースが非常に多いです。当社はフランチャイズビジネスであり、店舗での配荷決定権はあくまでも店舗オーナーさんたちにあります。

島川 配荷を決めるとの事ですが、オーナーさんへの情報提供はどうしているのですか。たとえば、店舗のデジタルサイネージで広告を流すと決めたときに、店舗側にその商品が置いていなかったら、ものすごいチャンスロスになると思います。また、お客さまからクレームが来る可能性もありますよね。
 
ネスレ日本 常務執行役員 デジタル&Eコマース 本部長 兼 新規ビジネス開発部長
島川 基氏 氏

 ネスレ日本に入社後、セールスおよび企画部門の経験を経て、飲料事業本部にてブランドマーケティングを担当。複数のカテゴリーを経験し、2019年までレギュラーソリュブルコーヒービジネス部 部長として、ネスカフェに加えネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ等のコーヒーメーカーを含めた基幹ビジネスを担当するとともに、チャネルを横断しネスカフェブランド全体のマーケティング施策を立案実行。2020年よりネスレスイス本社にてZoneAOAアシスタントリージョナルマネージャーとして各マーケットの経営企画支援を行い、2022年1月より日本に戻り現職。D2C領域に加えネスレ日本のEコマース全般を統括、また顧客視点のデジタルCXの実現に向け、部門を横断したイニシアチブをリードしている。


杉浦
 いまは、基本的にはデジタルサイネージでも、アプリでも広告配信できるようにメーカーさんの担当者の方と商談しています。それに加えて、意識的にそういった情報は店舗にも事前に流すようにしています。

フランチャイズのオーナーさんも商売をされているので、よい商品をお客さまに伝えたいという気持ちがあります。その手段として、アプリやデジタルサイネージなどのリテールメディアがあるのであれば、それを活用したいと考えるでしょう。すると、結果的にその商品の配荷率は上がりますよね。

島川 それは素晴らしいですね。ネスレ日本もいまグローバル基準に倣い社内ルールづくりをしていて、広告として枠を買う場合は透明性や公平性が重要な要素の一つです。店頭の陳列とセットにすることで価格はいかようにでも設定できてしまうかもしれませんが、透明性や公平性を考えていくことは健全なマーケットの発展には重要な要素ではないかと思います。

八木 なるほど。いま日本でそこまでしっかりと仕組みをつくられているところは、あまりないかもしれませんね。
 
電通コンサルティング 代表取締役 社長執行役員/シニアパートナー
八木 克全 氏

 京都大学、大学院で建築を専攻(工学研究科修士課程修了)。電通入社後、営業局、マーケティングコンサルティング局にて、デジタルサービスの開発/推進領域、大手企業のデジタル事業の開発/事業グロースを経験。2016年より電通デジタル設立に参画。DX(デジタルトランスフォーメーション)領域管掌の執行役員として、新規事業、サービス開発やトランスフォーメーションコンサルティングを推進。22年1月より現職。新規事業/サービス開発や変革支援を得意とする

杉浦 当社もまだ途上であり、手製の仕組みになっています。私がセブン‐イレブンアプリの責任者をしていたとき、アプリの会員数がどんどん増えデータも増えていきましたが、やはりほとんどがtoC向けのサービスでした。そこでtoB企業を取り込んでデータと配信面を活用して、より汎用性の高いものにしていきたいと考えたのがきっかけでリテールメディアに取り組みました。

しかしながら、広告配信に挑戦してみたところ、リーチできる人数が少ないことを痛感しました。当社のアプリは、セブン-イレブンで買い物をするお客さましか開かないケースが多いので効果が限定的です。それを踏まえ、1日約2000万人の来店者がある店舗も活用することで、より効果的にリーチできると考え、店舗にデジタルサイネージの設置を始めたという経緯があります。

一方で、デジタルサイネージだときめ細かいOne to Oneマーケティングは難しいですよね。いまのテクノロジーを駆使すれば、サイネージでも個人を捉えて適した情報を出していくこと自体は可能だと思いますが、それは果たしてお客さまが求めていることなのかと考えたときに疑問が残ります。
 
セブン-イレブン・ジャパン
マーケティング本部 デジタルサービス部 兼 リテールメディア推進部 総括マネジャー
杉浦 克樹氏 氏

 1998年セブン-イレブン・ジャパン入社。長野・山梨、西東京にて加盟店を支援する現場でゾーンマネジャーを経験し、2018年からセブン&アイ・ホールディングスで新規事業会社の立ち上げを実施。21年3月よりセブン-イレブン・ジャパンのデジタル販売促進部総括マネジャーとしてセブン-イレブンアプリの責任者を経て、22年9月よりリテールメディア推進部総括マネジャーとして、リテールメディアの立ち上げ、戦略企画、実行の責任者を担当。24年3月よりデジタルサービス部 総括マネジャーを兼任。

もちろんアプリ、デジタルサイネージだけでは足りないメディアパワーを補うため、Web広告やマス広告も併用していきます。しかし我々は、コアな「データ」をきちんと活用することをビジネスの本筋にしていくことが一番の勝ち筋であり、それがメーカーさんにとっても意味のある取り組みにつながるだろうと考えています。

そのため、いろいろと試行錯誤する中で、リテールメディアを「メディア」として1社が手掛けるのには限界があると感じています。それであれば、当社は何のためにあるのか、当社の強みは何だろうと考えていく中で、やっとこの半年くらいで「データ」が強みのひとつであることに立ちかえりました。

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録