関西発・地方創生とマーケティング #40後編

「重要なのは唯一無二の組織カルチャーとリーダーシップ」 タビオと大都が見出したクリエイティブ・ジャンプの秘訣【ネプラス・ユー京都2024レポート】

前回の記事:
「靴下屋」タビオとDIY専門店・大都が実践、ビジネスをジャンプさせるクリエイティブな組織のつくり方 【ネプラス・ユー京都2024レポート】
 2024年5月20日と21日に京都で初開催された「ネプラス・ユー京都2024」に参加しました。前編に続き、私がモデレーターを務めた公式セッション「クリエイティブ・ジャンプを生む『おもろい』組織カルチャーとは」についてお伝えしたいと思います。

 スピーカーは以前、私がこの連載で取材させていただいたタビオ 代表取締役社長の越智勝寛さんと、大都 代表取締役の山田岳人さん。前編では、お二人が考えるユニークな「クリエイティブ・ジャンプ」について伺いました。後編の今回は、その結果どんな成果が生み出されたのかを、お二人のやり取りをメインに私のコメントを挟みつつ、まとめました。
 

ジャンプにはお金がかかる。けれど得たものは大きかった

 
近鉄都ホテルズ/取締役 ホテル運営本部 副本部長(※セッション時は東京エリア統括兼シェラトン都ホテル東京 総支配人)
能川 一太 氏

 近畿日本鉄道で、駅や美術館などの設計、建築、観光プロモーション、レジャー事業を担当。志摩スペイン村テーマパーク支配人、シェラトン都ホテル東京総支配人を経て、現在は国内のホテル事業全般を担当。

山田 いろいろと勝負していく中で、クリエイティブ・ジャンプにはお金もかかるんです。先ほどお話した、DIY専門店「DIYファクトリー」というお店ですが、東京、大阪、あともう1店舗あって3店舗やりながら全部赤字でした。体験するお店で物を売らないんだから儲かるはずがない。二子玉川の一等地でお店をやって、アプリ開発でどんどんお金が出ていくけれど、アプリはローンチしてから最後までマネタイズしませんでした。クリエイティブ・ジャンプという意味では相当、ジャンプしたと思っているんですが、成功したかというと成功していなくて大赤字。それこそ会社の存続すら危うい状況になるんですが、ただその時に業界内やユーザーさんの認知がすごく広がった。メディアの取材もものすごくきた。特に東京のお店はめちゃくちゃテレビに出ました。
 
大都 代表取締役
山田 岳人 氏

 大学卒業後、リクルートに入社。6年間の人材採用の営業を経て、創業1937年の総合金物工具卸売業「株式会社大都」に入社。入社5年後の2002年にEC事業を立ち上げる。2011年、代表取締役に就任。B2B(事業者向け)通販サイト「トラノテ」では建設業など現場で必要な工具や消耗品を400万点以上販売。B2C(モール出店)では工具や塗料などDIY用品の日本最大級のECサイト「DIY FACTORY」を運営。楽天市場のDIYジャンルで4年連続で日本一のアワードを授賞。日本の住まいを自由にすべく、取引先とのデータ連携システムを自社開発し工具業界のサプライチェーンプラットフォームを構築。

メーカーさんがすごく喜んでくれたし、我々の支援に回ってくれた。この期間中に外部資本が相当入りました。グロービスさん、カインズさんから資本参加いただいて、昨年は楽天さんにも出資していただきました。トラノテという事業者向けの、自分たちで「ポストモノタロウ」と言っているサイトを昨年ローンチして、メーカーさんが自由に販売できるプラットフォームを作ったことで、巨人と対抗できるような仕組みができたのです。

カンブリア宮殿にも出ました。その効果についてもよく聞かれるんですけど、認知度は上がりましたが、売上は全然上がらなかったです。ただ、その時に村上龍さんが言ってくれた「先代の時代の財産は取引先のメーカーさんですよね」という言葉。

本当にそれが、我々のビジネスモデルになって、パートナーさん、メーカーさんと一緒にビジネスをするようになったのが非常に大きな転換だったと思っています。おかげで楽天ショップのDIYジャンルでは、大手も出店されている中で4年連続日本一。かつて苦渋をなめさせられた存在に、今は勝っています。インターネットの面白いところですね。大阪の下町の企業でも、数千億規模の大企業に勝てるのです。Webの世界というのは、今更ながらすごく面白いなと思います。

その結果、社員数はほぼ変わっていないけど、10年間で売上は6倍くらいになりました。






ーー 山田さんの大都ではクリエイティブ・ジャンプした結果、何が生み出されたのか。お金を生まないDIY専門店やアプリ開発などで大赤字を出したというお話ですが、結果的にさまざまなところから出資を受けたり、特にカンブリア宮殿で村上龍さんから、「先代の時代の財産は取引先のメーカーさんですよね」と教えられたりして、それが実際にビジネスモデルになって、パートナーさん、メーカーさんと一緒にビジネスをするようになったのが大きいのではないかと思いました。では越智さんは如何でしょうか。

 
タビオ 代表取締役社長
越智 勝寛 氏

 1994年ハウスオブローゼに入社。1997年 ダン(現タビオ)に入社、2003年商品本部長就任、翌年 取締役就任、その後 取締役第一営業本部長を経て、2008年 代表取締役社長に就任。現在に至る。「熱愛」「顧客中心」「不易流行」「和」の経営理念の下、ものづくり・お店づくり・人づくりに決して妥協せず、協力工場の皆様やフランチャイズの皆様と強いパートナーシップを築き上げ、お客様にとって最高のものづくりとお店づくりを目指している。

越智 窪塚洋介さんをゲストに迎えて、IWGP(テレビドラマ「池袋ウエストゲートパーク」)世代の方たちと集まる機会がありましたが、朝まで盛り上がって、それがアンバサダー就任にまでつながったりしています。窪塚さんはいろいろと注目を浴びることもある方ですが、爽やかで、素晴らしい人です。

他にも、個人で音楽フェスに出資し、その縁でブース出店してほしいと頼まれたので、コロナ明けくらいからブース出店していた時に、木村カエラさんがマネージャーさんとたびたび買いにきてくれるので仲良くなって、「うちのアンバサダーになってよ」と言ったら、「いいですよ」となり、就任してもらったんです。





山田 これも社内で木村カエラさんが好きな人がプロジェクト組んで?

越智 はいはい。

山田 盛り上がるよね、そりゃ。

越智 やばいくらいのファンが2人いるので、その人たちでやっています。先ほどお話ししたFCバルセロナからの依頼の件も、少年サッカーへの出資からだんだん人脈が広がって、イニエスタさんと知り合いになって、気づいたらオファーが来たんです。

山田 僕も出資して欲しいなと思っているんですよ、今(笑)。

越智 個人的に出資した結果、こうやって会社に戻ってきたりするので、大きなジャンプをすると、本業に帰ってくるというのは体感しています。やってみなきゃ分からないってやるんですけど、この3年間、ほぼ失敗がないです。

こういうのはしっかりとルール化して、なぜこうなったのか、きちんと分析して続けていけたらと考えていますが、今のところ窪塚さんも木村カエラさんもバルセロナも、最初はそんなつもり全くなかったのに、つながりました。窪塚さんはかっこいいし、カエラさんはすごくセンス良くて可愛いし、バルセロナは好きなチームだった。それだけなので、商売になるなんて思ってもいなかったです。




ーー これはある意味、凄いですよね。個人のお金を投資して、それが回り回って著名人がアンバサダーになってくれたり、FCバルセロナとの契約につながったり。そのまま再現は難しいですが、「好き」という純粋な思いからジャンプした結果、ビジネスにつながるというのは参考になりそうです。

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