関西発・地方創生とマーケティング #08

「止まった時計でいろ」 500年続く、灘の蔵元「剣菱」の家訓【白樫政孝社長】

前回の記事:
5年連続出願数No.1を実現した、近畿大学の“街づくり志向”と“コミュニケーション戦略”【世耕石弘 インタビュー】

500年続く剣菱を、4Pの視点で分析

 皆さん、お酒は好きですか?

 そして今、「お酒」と聞いて何を思い浮かべましたか?

 ちなみにAmazon「酒ランキング」では、上位をビール系飲料が占めて10位前後からウィスキーと日本酒、チューハイが表れます。

 では、「神戸 酒」と検索すると、どうでしょう。日本酒が並びます。そう、有名な灘五郷ですね。なかでも創業500年を超えるのが、室町時代から続く剣菱酒造です。

 今回は、剣菱酒造の白樫政孝社長に500年続く理由をお聞きして、マーケティングの基本である4P(Product・製品、Price・価格、Place・流通、Promotion・販売促進)の視点から整理しました。
 
剣菱酒造 代表取締役社長 白樫政孝氏

Product 味とロゴが変わらなかったから500年続いた

 生物もビジネスも、変化するものが生き残ると言いますが、剣菱は逆だと言います。白樫社長は、次のように話します。

 「いま新しいと言われているものも、むかし流行ったもの。例えば、最近日本酒をワイングラスで飲む人がいるが、すでに江戸時代にビードロで日本酒を飲んでいる姿が浮世絵に残っている。感覚的なものだが、嗜好も50年周期で繰り返しているように思う」

  難しいのは、どうすれば変えずに守り続けることができるのか。それは、白樫社長いわく、親子関係だそうです。親に負けたくないという気持ちが出て来ると、本質からずれる、と。

 さすが世襲で、500年続いた企業です。ここで効いてくるのが家訓です。社長いわく「家訓は、ガバナンス」だそうです。
 

「止まった時計でいろ」


 流行を追い、流行についていこうとすると、どうしても一歩遅れが生じます。そして、遅れている時計は、1日に1度として時間が合うことはありません。しかし、止まっている時計は1日に2度、ぴったりと時間と合う瞬間がきます。

「お客さまの好みは時代とともに移るけど、必ずまた戻ってくる。だから、自分たちが自信を持つ味をしっかりと守り続けなさい」という意味が、この家訓には込められています。

 そして、変えないのは味だけではありません。ロゴも500年間、変わっていないのです。



 江戸時代後期、頼山陽が執筆した『長古堂記(ちょうこどうき)』には、剣菱のロゴについて、他社が奇をてらって毎月銘柄を変えるところ、「墨くろぐろと縦、横一筆ずつ剣の刃先と菱形を書き、昔から改められたことがない」との記述があります。

 さらに、このことが剣菱の酒造りに対する姿勢そのものを表しており、目まぐるしく移り変わる世で「質実であれば変動せず、変動しなければ永続する」と、剣菱が長寿であることの所以を説いています。

 2016年に剣菱は、グッドデザイン・ロングライフデザイン賞を受賞しています。審査員からは、次のように評価されています。

「500年かたちを変えていないというのも歴史ある企業の多い日本の中でも驚くべきことだ。当時は識字率が低いため象徴的なシンボルを用いたという。上部を男性、下部は女性をあらわし、陰陽和合をあらわしているそうだが現代においても心揺さぶられる優れたデザインである。高い知名度を誇る剣菱であるが、この魅力的なシンボルもそこに大きく寄与しているに違いない」
good design award ホームページ)

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