人・データ・AIの力で「最適な顧客体験を設計」
国内外のリテールとメーカーのマーケター、そしてパートナーが集結するカンファレンス「リテールアジェンダ2025」(ナノベーション主催)が9月11日、東京都渋谷区のEBiS303で熱狂のうちに開幕した。2日間の日程で両日とも200人あまりが参加。小売ビジネス・マーケティングの最新潮流が共有され、議論とネットワークが交わされる。
初日のキーノートは「選ばれる店舗をどうつくる?─AI時代を見越したデータ活用による体験設計と利益創出」をテーマに、スギホールディングス 執行役員 DX・SCM・コーポレートブランディング担当の森永和也氏がスピーカーとして登壇した。サントリー 広域営業本部 第2支社長 兼 デジタル戦略部 部長 リテールAI推進チーム シニアリーダーの中村直人氏がモデレーターを務め、激戦のドラッグストア業界において急成長を遂げる同社のリテール戦略に迫った。

地域のヘルスケアインフラを目指し、全国に2000以上展開するリアル店舗の強みを生かしつつ、大規模なDXとデータドリブンを加速する同社。森永氏によると、スギ薬局アプリは1400万ダウンロードを達成し、アプリとデジタルコミュニケーション台帳で収集したデータは顧客セグメントや提案の最適化、パーソナルな店頭対応などに活用している。市販薬の購入パターンも分析し、健康関連の提案や商品・サービスの案内につなげているという。
データの深化と活用を進める一方、医薬品を扱うだけに、データはセンシティブなものも多く、取得・活用には慎重さが求められる。敏感な医薬品の配送も同様で、物流の最適化と安全確保は直近の重要課題。現在はおもに社内作業の効率化に使っているAIも、今後はデータ基盤が整い次第、配送やスタッフ配置、出店戦略の最適化などに活用していく方針だという。
店舗・EC・アプリなど顧客接点が多様化する中、「選ばれる店舗」になるためにはどうしたらいいか。参加者全員が抱えるだろうこの課題に、森永氏は「AI・データも活用しながら、顧客の期待とニーズを的確に把握し、それを踏まえて来店前・来店中・来店後の顧客体験全体をどう設計するかが重要」と指摘。その上で、「スギ薬局は店舗という顧客接点を担う現場スタッフまでが一緒になって、顧客の期待とニーズに応える顧客体験をみんなでつくり上げている」と強調した。

全体テーマは「The New Profit Engine Powered by Data & AI」
リテールアジェンダは、国内外のリテールとメーカーのマーケティング領域の責任者をつなぎ、ネットワーキングの場をつくることを目的としている。消費者まで一気通貫の質の高いマーケティングの実現を目指して、体験価値の向上や組織体制、データ連携、テクノロジー活用、最新の海外事例など、さまざまなテーマについて議論。次の時代のリテールとメーカーが共に成長していく戦略や取り組むべき施策を共有する。
9回目となる今年のテーマは「The New Profit Engine Powered by Data & AI」。
原材料費や人件費の高騰が続く中、多くの小売業やメーカーがコスト上昇分を価格に転嫁できず、収益確保の難しさに直面している。こうした厳しい環境下で求められるのは、商品を「一度売って終わり」にするのではなく、顧客と継続的な関係性を築き、長期的な利益につなげていく視点だ。さらに、限られた人材や予算で成果を最大化するには、AIやデータを活用して「業務効率の向上」と「顧客体験の最適化」を両立することが鍵となる。
「リテールアジェンダ2025」ではスギホールディングスに続き、厳しい環境の中でリテールマーケティングの最前線に立って挑戦を重ねるプロフェッショナルが次々と登場。2日目のキーノートではデータ活用を軸にリテールビジネスの革新を続け、「西友」買収でも注目されるトライアルホールディングス 代表取締役社長の永田洋幸氏が登壇し、モデレーターをPreferred Networks エグゼクティブアドバイザーの富永朋信氏が務めるなど、見逃せないセッションが続く。会場に集ったマーケターそれぞれの体験や知見が化学反応を起こし、リテールマーケティングの未来を切り開く場となることが期待される。

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