[Agendaスペシャル] スポーツ・スポンサーシップの幸福なカタチを探る #04
東京五輪・FIFAワールドカップのスポンサーシップで、効果を出すために必要なこと【後編】
2018/05/21
メディア露出とアクティベーションの両輪が重要
ビジネスツールとしてスポンサーシップを活用するためには、スポンサーとして約束されている露出のほかに、アクティベーションが欠かせません。アクティベーションとは、企業自らがスポンサーであることを消費者に訴求する活動のことを指します。というのも、例えばブランドの認知拡大を目的に看板を出していたとしても、ファンはどうしても看板ではなく試合に注目してしまう。そこで、その部分を企業活動で補い、スポンサーシップの効果をより高めるようにするのです。
ニールセンスポーツジャパン
代表取締役 秦 英之氏
2013年2月 ニールセン スポーツ ジャパン(旧レピュコムジャパン)代表取締役に就任。スポーツスポンサーシップに対する投資価値を同社独自の方法で評価・測定し、日本のスポーツマーケティング市場を開拓。ニールセンスポーツ入社以前は、ソニーにてグローバルクライアントの担当を歴任。その後、米国ソニーに転籍し、FIFA(国際サッカー連盟)とのトップパートナーシップにおけるマーケティングに携わり、ワールドカップをはじめとした数々のFIFA大会におけるグローバル戦略を構築した。Jリーグマーケティング委員も務める。
アクティベーションは日本では比較的、新しいモデルです。先陣を切っているのがサッカー日本代表のスポンサーであるキリンです。キリンは、キリンカップやキリンチャレンジの開催、勝ちTのプレゼントキャンペーン、サッカーを通じた社会貢献活動など、長年に渡って横断的にアクティベーションを行っています。
その結果、今ではサッカー日本代表のスポンサーといえばキリンというイメージが定着しています。まもなく開催するワールドカップでも盛り上がりをつくっていくでしょう。
東京五輪を効果的に活用するために
今後は、2020年の東京オリンピックが一つのきっかけとなり、アクティベーションが活発に行われるようになります。その結果、スポーツスポンサーシップ文化の土台が構築されると考えています。その理由は、オリンピックにはスポンサー契約時の露出が一切ないためです。ほかの大会では、スポンサー契約を結ぶと同時に露出が約束され、投資すればある程度の露出がリターンとしてありました。しかしオリンピックは、大会ロゴが使えるという権利以外は追加料金になります。
現在(2018年5月14日時点)、2020年の東京オリンピックのスポンサーは62社集まっていますが、具体的な活用方法を考えずにスポンサーになり、持て余しているケースも起きていると聞きます。
マーケティングファネルの流れから考えると、最初に達成すべき目的は、スポンサーであるという認知拡大です。より多くの人にリーチできるという意味では、テレビCMが最も有効的と考えられています。
しかし2016年のリオオリンピックの際は、スポンサー各社が大量にテレビCMを打ったにも関わらず、期待された効果が出ないケースもありました。それは各社のクリエイティブが同じ構成だったため、差別化できなかったことが原因でした。
一方、2012年のロンドンオリンピックで大きな市場を築いたと言われるP&Gは“ThankYouMom”というキャンペーンを打ち出し、ターゲット層である「お母さん」という要素とオリンピックの要素を組み合わせたテーマにしました。
そのことでP&G社のメッセージが分かりやすく伝わり、他のスポンサー企業と差別化を図ることに成功しています。また、テーマを掲げることで、アクティベーション戦略の方向性が一本化できるという利点もあります。
最近は、日本でも同様に企業独自のテーマを掲げたアクティベーションが行われ始めています。例えば、ニッセイは「Play,Support.」というコピーで、東京オリンピックのスポンサーであることを訴求するテレビCMを制作しました。
“Play,Support.”というコピーを掲げるメリットは、オリンピックに限らず、どんな大会でも同じコピーが使用できることです。つまり、ニッセイがこのコピーをスポーツの応援に使用しているという認知を広げることができれば、ニッセイがオリンピックのスポンサーであることが自ずと認知されるようになるのです。
もちろん、公式スポンサー契約を結んでいない企業が無断で広告やキャンペーンに活用するアンブッシュマーケティングは行ってはいけません。しかしニッセイのようにスポーツスポンサーシップで横断的に一貫したメッセージを発信することで、より効果的なアクティベーションにつなげることができます。
今回の東京オリンピック開催に際して内閣府が打ち立てている「beyond2020」というプログラムも有効でしょう。東京オリンピックのスポンサーであるかどうかに関わらず参画できるため、このプログラムを利用したプロモーションを行えば2020というワードからオリンピックを連想させることができます。あたかもオリンピックを応援しているようなイメージが訴求できるわけです。