マーケターズ・ロード 元グーグル日本法人代表 村上憲郎 #04

5Gの到来、次の時代を制する「チャンス」を逃すな ― 元Google日本法人社長・村上憲郎

前回の記事:
「最悪の事態を想定していれば、問題は解決する」元グーグル 村上憲郎に影響を与えた2人の先輩
 グーグル米国本社副社長およびグーグル日本法人社長・名誉会長としてインターネット業界の第一線で活躍し続けてきた村上憲郎氏。黎明期からインターネット広告の成長の軌跡を間近で見つめ続けてきた同氏の半生を振り返りながら、日本企業やマーケターに求められる視点について考えた(最終回/全4回)。
 

5G時代にチャンスを掴むのは誰だ?


村上憲郎氏むらかみ・のりお/日立電子のエンジニアとしてキャリアをスタートし、DEC日本法人のマーケティング取締役、ノーテルネットワークス日本法人CEO、ドーセント日本法人代表などを歴任し、2003年4月よりグーグル米国本社副社長兼グーグル日本法人代表取締役社長に就任。2009年に日本法人の名誉会長になり、2011年退任。エナリスの代表取締役を経て、現在は複数の企業のアドバイザーなどを務める。

 インターネット広告に黎明期から携わり、テクノロジーの進化や、グーグルの事業拡大の軌跡を間近で見つめ続けてきました。

 インターネット広告、特に運用型広告の売上は成長しており、日本の広告費全体に占める割合を増し続けています。しかしながら、果たして今後もインターネット広告だけでいいのか?という疑問はあります。

 グーグルは、広い意味でのマーケティングをサポートすることはできていません。AdWordsもAdSenseも非常に広く普及しましたが、その影響範囲はインターネット広告領域にとどまっています。これは、グーグルとその周辺にいるパートナー企業にとって大きな課題です。

 広くマーケティングをサポートできていないという意味では、電通・博報堂をはじめとする従来の広告業界のプレーヤーも、同様の課題を抱えていると言えます。

 今は、誰もが「次の一手」に思い悩んでいる。その「次の一手」を打つカギとなるのが、IoT・ビッグデータ・人工知能という3つの技術です。そして、これらの技術を一気に実用レベルに引き上げるのが、次世代通信技術「5G」です。これまで使いこなすことができていなかったIoT・ビッグデータ・AIが5Gによって使いこなせるようになる。5Gの本格運用開始をきっかけに、マーケティングのあり方は大きく変わっていくと予想しています。

 もちろん、押さえるべき基本的なマーケティング理論は変わりません。しかし、戦術としてはIoT・ビッグデータ・AI・5Gを活用し、データドリブン・データセントリックなアプローチをとらなければ、これからの時代は通用しないということです。

 例えば自動車産業は、IoT・ビッグデータ・人工知能。そして5Gによって一気に状況が変わる業界のひとつだと思います。クルマを売るビジネスから、MaaS(Mobility as a Service)へと変わる。そうなると、商品/店舗/テレビ/新聞/雑誌/ラジオ/インターネットといった具合に、媒体別に区分するこれまでのマーケティングは意味を為さなくなります。「媒体別に円グラフを描く」時代は終わりを迎えたのです。



 キーワードは「ディスプレイ」です。すべてがインターネットにつながった、スマートホーム、スマートビルディング、スマートコミュニティ、スマートシティが実現されていきます。スマートホームの中、スマートシティの中のどこにディスプレイがあるのか?そのディスプレイでオーディエンス(顧客)に何を表示するのか?を考えなければなりません。

 IoT・ビッグデータ・AIと、各技術が成熟してきて、それぞれがどんな技術であるのか、皆さんそれなりに理解してきたと思います。これらの技術が、5Gによって一気にオーディエンス側にいきわたるようになるわけです。

 家の中へ、ビルの中へ、街の中へ、隅々までいきわたる。それを活かさない手はありませんよね。これらの技術を使い倒したところが、次の時代のマーケティングの中心的プレーヤーになる。電通・博報堂・ADKの次の時代を、果たして誰がつくるのでしょうか。

 マーケターにとっては、まぎれもなくチャンスのときです。IoT・ビッグデータ・AI、それぞれについて詳細まで知り尽くす必要はありません。それぞれ1冊でいいから書籍などを読んで、心得を持つことです。5Gについてはまだこれといった解説書はありませんが、あちこちに情報が出ていますから、ぜひ学んだほうがいいですよ。

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