マーケターズ・ロード 足立光 #01

日本マクドナルドCMO足立光氏が、P&Gで身につけた「強さ」とは

P&G人材の強さの秘訣は「共通言語」と「ビジネス環境」

 日本で6年、韓国で2年。計8年間在籍してみて、P&G人材の強さの秘訣は「ビジネスに対する基本的な考え方」を全社員が共有し、実行していたことにあるのではないかと感じています。

 例えば、目的(何のためにそれをやるのか?)を常に明確にすること、コンシューマーを重視して常に向き合うこと、施策後のレビューを重視してPDCAを回すこと。どれも、ごく基本的なことのようですが、言うは易しで、実行できていない企業は少なくありません。

 とは言え、私自身は、マーケティング業界でしばしば取り上げられる「P&G用語」は、現在もほとんど使っていません。在籍期間が、P&G以降に経験した企業のほうが長いこともあり、自分のキャリアの中でP&Gだけを特別とは感じていないのです。実は自分が「P&G人材」と呼ばれることにも、若干違和感があります。

 強い人材が育つという意味では、ビジネスが急成長している環境も重要です。当時のP&Gに限らず、急成長している企業はそうでない企業に比べ、社員が自身の経験値を高めやすいと言えます。

 なにしろ仕事量が多く、対応しなくてはいけない幅も広いので、否応なしに経験値が上がる。例えば、数年前のAmazonやLINEに在籍していた方は、外の世界でも活躍できそうなイメージがあります。   



 重要なのは、急成長しているだけではなく、確固たる考え方やフレームワークが社内に存在し、それが社員の間で共有されているかどうか。「好きなようにやってくれ」という風土で、社員一人ひとりがバラバラに仕事を進めている企業では、人は育ちにくいと思います。

 いま各領域で活躍している同年代のP&G人材とは、担当カテゴリーが異なれば執務フロアも異なりましたので、日頃会う機会はそう多くありませんでした。

 マサ(伊東正明氏。P&G バイスプレジデントを経て、現在はOFFICE MASA代表)は彼が入社してすぐ私が韓国に赴任してしまったのでほとんど重なっていないし、西口(一希氏。現在はスマートニュース シニア・ヴァイス・プレジデント/執行役員 マーケティング担当)や音部(大輔氏。現在はクー・マーケティング・カンパニー代表)は担当カテゴリーが違ったので、在籍中は、実はあまり顔を合わせていなかったのです。

 しかし、さまざまなトレーニングは一緒に受けていました。
 

必要なスキルセットを学ぶためのトレーニング

 折に触れて取り上げられるとおり、P&Gのトレーニング制度は、当時からしっかりしたプログラムが存在しました。私は、3つユニークな点があると考えています。

 ひとつ目は、プログラムの設計が優れていること。「この仕事を担当するには、どのようなスキルが必要か」という、レベルごとに必要なスキルセットが明確に設定されていて、一人ひとりが自分の足りないところをトレーニングできるよう設計されていました。

 2つ目は、講師はすべて社員が務めること。これにより、P&G人材としての「共通言語」、ビジネスに対する基本的な考え方が自然に共有されていくシステムになっていました。

 3つ目は、エージェンシー(広告代理店)も一緒に全く同じ研修を受けること。たとえば私が入社したタイミングでP&G担当になった電通関西のスタッフは、常に私と一緒に研修を受けていました。パートナーであるエージェンシーにも「共通言語」を理解してもらうことで、「P&G流」の強度がさらに高められていたと思います。

 ランチタイムを兼ねたレクチャーなど、短時間集中型のトレーニングもたくさんありました。教えるのも、教わるのも当たり前。共通のロジックやフレームワークが「存在する」だけではなく、それを教えよう、共有しようとするオープンなカルチャーがありました。ビジネス上の成果を挙げられても、部下を育てられなければキャリアアップできないという人事評価制度があったことも大きいと思います。



 P&G時代に限らず、キャリア全体を通じて、私には「メンター」と呼ぶような存在がいません。いろいろな上司や同僚がいて、その中には尊敬する人もたくさんいましたし、彼らの良いところ・優れたところから学んできたことは間違いありませんが、「この人から強く影響を受けた」「この人に心酔した」という特定の人はいないのです。

 しかし、こうした制度とカルチャーの中で、マーケティング実務に必要な考え方や方法論をスピーディーにインプットしながら、多様かつ刺激的な経験を積むことができたのが、P&G時代だったと言えます。

続き、「足立光/ブーズ・アレン・ハミルトン、ローランド・ベルガー時代」はこちら
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