マーケターズ・ロード 足立光 #03

「マーケティング一筋では、いずれキャリアに限界がくる」日本マクドナルドCMO足立光氏

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「常に、自分より1つか2つ上の役職の仕事をすべき」日本マクドナルドCMO足立光氏

ビジネスは究極のシミュレーションゲーム

 2004年に、ローランド・ベルガーから、独ヘンケルグループに属するシュワルツコフヘンケルに転職しました。そして入社から2カ月後に同社の全責任者であるマネージング・ディレクターを拝命しました(法的な社長就任は2005年から)。

 2007年からはビューティーケアのプロフェッショナル事業であるシュワルツコフ プロフェッショナルの責任者を兼任し、2011年からはヘンケル ビューティーケアのヴァイスプレジデントとして北東・東南アジアの代表も務めました。

 コンサルティング業界から、実業の世界に戻りたいと考えての転職でした。
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 と言うのも、コンサルティングにできるのは戦略を提案するところまでで、そのプランを実行するかどうかを決めるのはクライアントです。どれだけ熱意を持って緻密に練り上げた戦略でも、実行されないことがままあります。また、コンサルティングでは、施策を実施し、結果を受けてレビューを行い、次なる打ち手を考えるというPDCAサイクルも多くありません。

 自分で決めたプランを実行し、結果を基に改善策を講じてまた実行するというビジネスの基本立ち返り、経営・マーケティングの最前線に身を置きたいと考えたのです。

 数ある企業の中でシュワルツコフヘンケルを選んだのは、やはり日本では知られていない世界のトップ企業だったからです。同社は日本企業を買収して日本に参入して2年経っても相当な赤字が続いており、もし私が入社して失敗したら日本市場を撤退する、という危機的状況でした。当時34歳。“修羅場好き”の私は、まさに「背水の陣」でその環境に飛び込みました。

 マーケティング責任者として入社したはずだったのですが、先代の社長が退任したために、入社2カ月で総責任者(マネージング・ディレクター)に就任することになりました。課せられたミッションは、シュワルツコフヘンケルを2年で黒字化すること。収益改善のために、営業組織のリストラや生産拠点の海外移管等により費用を削減するとともに、付加価値商品の投入による売上向上・収益性改善を図りました。

 売上向上につながった施策のひとつに、ヘアブリーチ剤(脱色剤)「フレッシュライト ブリーチ」のパッケージリニューアルが挙げられます。

 ヘアブリーチ剤の購買における、ターゲットの意思決定は、ほぼ店頭でパッケージを見て行われることがわかっていました。そこで、ターゲットの8~9割という圧倒的多数が好意を持つようなパッケージデザインに刷新することで、店頭で圧倒的な差別化を図ろうとしたのです。
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 起用したのは、当時人気を博していた「ブライス」という人形でした。また、男性向けのヘアカラー剤「メンズフレッシュライト」のパッケージには、10~20代男性からの絶大な支持を誇る高橋ヒロシ氏の人気コミック「クローズ」「WORST」のキャラクターを起用しました。

 「ブライス」も「クローズ」も、大手メーカーが起用しづらいエッジの効いたキャラクターであることがポイントです。ここで、製品は全く同じでも、パッケージ(箱の柄)が違うだけで圧倒的に売れる、というP&Gではなかなかできない経験をしました。

 このようなエッジの効いた徹底的な差別化戦略とコスト削減が成功し、業績は急激に回復し、シュワルツコフヘンケルは私の就任2年後には黒字化しました。

 「失敗すれば撤退」という後がない状況には、相当なプレッシャーを感じたのではとよく尋ねられます。

 しかし、誤解を恐れずに言えば、私は仕事というのはシミュレーション・ゲームの「信長の野望」と同じようなものだと思っています。社長とは言え、オーナー(創業社長)ではありませんから、失敗したところで全財産を失って路頭に迷うことはありません。言い換えると、失敗しても「クビ程度」で済むのが雇われ社長です。

 経営やマーケティングは、売上や利益といった目標を設定して、「こうすれば達成できるのではないか?」と仮説を立てて実行する、究極のシミュレーション・ゲームです。そういう意味で、日々押し寄せる修羅場にプレッシャーこそ感じても、それをストレスに感じることはありません。

 何しろ、すごく面白いリアルのゲームを、給与をもらってやってるんですから(笑)。しかし、ゲームは勝たなければ面白くない。勝負するからには、常に勝たなければいけないと思っています。
 

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