Adobe Summit 2019 #02

日本企業に再度、確認してもらいたい「基本の徹底」Adobe Summitに見るこれからのマーケティング【後編】

前回の記事:
Adobe Summitに見るこれからのマーケティング【奥谷孝司 現地レポート】

Adobe Summitの醍醐味は300を超えるセッションにあり


 前編では、アドビが考えるCXM(カスタマーエクスペリエンスマネジメン)戦略および、その実現に不可欠な要素を筆者なりに解説させていただいた。後編では、Adobe Summit開催中に行われる300を超えるセッション、Community Pavilionに出展している大小さまざまな企業ブースの楽しみ方、そこから得られた学びについて紹介させていただきたい。

 キーノートセッションのチェックは不可欠であるが、オムニチャネル事例から、ヘルスケア、AI、機械学習まで幅広い領域で事業会社、パートナー企業、アドビ社員が行うセッションの多くは、新しいインサイトを得る最高の場所である。

 筆者は、300を超えるセッションから主にオムニチャネル、ヘルスケア、D2C、最新テクノロジー活用といったキーワードをもとにセッション検索を行い、1日4~5本程度のセッションに参加した。しかし、それでも全体の5%程度しか参加できないのだから、規模の大きさに改めて驚かされる。
 
アドビ CEO Shantanu Narayen氏。
 セッションの多くは、アドビ製品を活用した事例であり、ツール紹介に終始するものや、内輪話のパネルディスカッションといったものも中にはある。しかし多くのセッションは顧客体験づくり、経営、マーケティング戦略に真摯に向き合う企業事例が生々しく語られ、質疑応答も盛り上がる充実した内容だ。

 Adobe Summitに参加できる人なら絶対に興味のあるセッションに事前登録してどんどん話を聞いてみるべきだ。そして、敢えて皮肉も込めて言わせていただくと、“事例収集が大好きな日本人”には世界のマーケティング事例が集まるこの場所を有効活用しない手はないだろう。世界中のCMO、CDO, CIOが語る臨場感あるサクセスストーリーから苦労話まで、聞けば聞くだけ知見が深まることを保証します。
 

デジタルトランスフォーメーション推進における世界共通の悩み


 3日間のセッションを通して、最初に興味深く思ったポイントは、オムニチャネル戦略やデジタルトランスフォーメーションを推進する上での悩みに関するディスカッションだ。

 あるべき組織体制、経営陣への理解醸成は、世界中のマーケターが直面する共通課題のようで、やはり日本企業だけの問題ではなかった。Albertson’sという米国大手GMS企業のオムニチャネル戦略事例においても、多くの参加者から、どのように上司から理解、サポートを得たのか?チームマネジメントはどのようにしているのか?といった、筆者も何度か日本で聞かれたことがある質問が多く出た。
 
Ⓒ123RF
 正直、同社のオムニチャネル戦略事例は多ブランドを抱える企業であるがゆえの悩みであるシステム統合の難しさからと推測するが、シングルサインオンの導入事例や、サイトデザインの統一、特定ブランドにおけるデータドリブンなA/Bテスト事例の紹介が中心であり、日本の小売業の方が進んだオムニチャネル事例を有しているようにも見受けられたが、彼らが行っているデジタル部門のマネジメント手法は大変参考になった。それは基本の徹底の重要性だ。

 アドビ製品のようなツールの運用をしっかり行うためにもチーム運営は大切だ。特に「small team management=小グループ」のチームづくりで、多くの課題から優先順位を選定することで、課題を解きやすい環境づくりを行うことが大切であるという。Albertson’sの事例では多くのデジタル課題にたいして3つの主要課題に集中し、少しずつ統合していく過程を解説してくれた。彼らがまずフォーカスした点は「1.Unified design(デザインの統一)」「 2.Loyalty & commerce(ロイヤルティプグラム&EC)」「3.single account/sign-on(シングルサインオン)」だという。

 課題が上がれば、Slackで協議を行い、リスクを最小化し、小さな成功を積み上げていく。そうすることで、「1.リリースパートの最小化」「2.スタッフのモチベーション維持」「3.relentless focus(粛々と課題解決を進める)」に集中し、成果が出たという。

 また、やらないこととして「1.現状にとどまらない」「2.簡単ではない改革を行う以上、痛みが伴うことが前提という覚悟をもってのデジタルトランスフォーメーションの推進」をあげた。やはりこの世界、不退転の姿勢が必要なのは世界共通なのだ。

 また、同社のデータアナリストから「be data centric」(データ中心主義)というフレーズも出てきた。まさに、前回解説したMeasurable=測定可能であることの重要性を痛感した。KPI設定において重要なこととして、「1.データの正確性」「2.データダッシュボードづくりには試作効果だけでなく、顧客視点を入れること」「3.チームで効果の最大化が期待できる課題の発見に注力すること」をあげ、とにかくテスト、挑戦する文化、テストを楽しむ姿勢、全員参加での挑戦、失敗しても結果を賞賛することで、データドリブンな顧客体験改善の流れを止めないようにしている。

 さらに、やらないこととして「一度に多くを変えすぎない。なぜなら変えてはいけないところと、うまく機能していたところがわからなくなるから」と言い、サイトリニューアルなどで陥りがちなポイントにも言及していた。世界中どこも、基本の徹底が大切なのだ。

 この内容に目新しさはないのかもしれない。しかし、この基本の繰り返しが組織を強くするし、ツールの発展によってこの反復連打がより早く、効率的にできる。他のセッションでも多くの企業が言及していた「基本の徹底」。日本企業も再度確認してもらいたい。

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