顧客基点の「ソーシャルメディア戦略」 #03

ソーシャルメディアは「顧客の満足度」を可視化してくれる装置【風間 公太】

前回の記事:
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ソーシャルメディアの効果を何で測るか


 満員の観客が待ちわびる中、突如ステージ上にポップアップで現れたそのアーティストは、予想に反して微動だにしない。場内の熱狂は高まるばかりだが、それでも凝然と立ちつくしたままだ。悲鳴に近い歓声が最高潮に達し、ようやく頭を逆方向に振りサングラスを外す。登場からこの最初の動作まで、その間約1分30秒。

 ライブ映像作品『ライブ・イン・ブカレスト』のオープンニングでも観ることができる、あまりにも有名なマイケル・ジャクソンのこのシーンを、皆さんはご存知だろうか。

 これまでの連載では、運用担当者が抱える主な3つの悩み「顧客との距離感が難しい」「投稿するコンテンツが無く苦労している」「効果測定の方法がわからない」をテーマに、距離感の定め方やコンテンツ選びの視点について述べてきたが、今回は効果測定について考えてみる。

 企業ソーシャルメディア運用においては、マイケル・ジャクソンのような「忍耐力」も必要であることを頭の片隅に記憶し、本記事を読み進んでいただきたい。

 

定量的な効果は忍耐力を持って判断したい


 例えば、小売業にとってわかりやすいソーシャルメディアのKPIのひとつは、商品の売上だ。筆者の前職である無印良品のように全国で約400店舗を有し、ECサイトも運用しているような企業の場合でも、ソーシャルメディアが売上に何らか寄与すると実感を持てるようになったのは、Twitterのフォロワー数が1万人を超えたくらいからだった。

 
無印良品Twitter フォロワー1万人達成時のツイート

 
 無印良品がTwitterアカウントを開設したのは2009年10月末。当時はまだ日本国内で積極的にTwitterを活用している企業が少なく、先行者利益もあって2カ月強でフォロワー1万人を突破した。ただし、企業がソーシャルメディアを利用することが当たり前のようになった現在では、1万人のフォロワーをオーガニック(広告の利用無し)で獲得することは、それなりの期間が必要なはずだ。

 このように、売上をKPIとして定める際にも、獲得するべきフォロワー/ファン数などの売上に影響を与える要素や、それを達成するための期間なども含め、複合的に設計しなければならない。他にも、小売業に限らず、店舗などのリアルな場を有している企業では、来店/来場者数もKPIになるだろう。

 筆者が昨今、注目している企業アカウント「森美術館」のソーシャルメディアでも、ゴールは来館であると言及している(出典:洞田貫 晋一朗「シェアする美術 森美術館のSNSマーケティング戦略」翔泳社)。
 
森美術館 公式インスタグラム
 
 同著は企業ソーシャルメディア運用ノウハウが惜しげも無く記され、運用担当者にとっては必読の書と呼べる出色の内容だ。担当者の個性に依存しすぎず、再現性のあるアカウント運用を大切にしている姿勢にも筆者は大いなる共感を受けるが、KPIに対しても定量的な視点で実直に向き合っている。

 来館者を集めることをゴールに向け、それを達成するためのKPIとしてはインプレッション/リーチを重視し、ソーシャルメディアの運用効果を最大限に高めるため、展覧会ごと、さらには投稿ごとに詳細な分析を地道に粘り強く実施している。この連載でも次回以降に取り上げたいと考えているが、ソーシャルメディア運用の社内理解の深め方についてもわかりやすい事例が記されているので、未読の皆さんにはぜひご一読いただきたい。

 ここで再度、冒頭のマイケル・ジャクソンに登場してもらおう。

 フォロワー/ファンの獲得、Webサイトへの流入数増加、売上増加など、企業がソーシャルメディアの運用を決断し、KPIを定め、運用を開始し、その効果を感じるようになるまでには、ある程度じっと我慢する忍耐力が欠かせない。そう、突き上げる衝動に本能のまま身を任せるのではなく、ステージに上がってじっと一点を凝視するマイケル・ジャクソンのように。

 潤沢な広告予算を投下してキャンペーンなどの成果を瞬発的に求める場合は別だが、ソーシャルメディア運用に十分な予算や人材を確保できない企業も多い。そのような状況の中、定量的な数値を追い求める際は、目の前の結果を求めるのではなく、忍耐力を持ちながら中長期的に腰を据えて取り組む姿勢が顧客との関係性を深め、目標に掲げた数値に近づく結果になるはずだ。

 そして、これは運用の現場に関わる方たちだけで無く、経営層/マネージャー層の皆さんも同じように忍耐力を持ち、「ソーシャルメディアは事業数字につながらない」と時期尚早に判断しないことを強く望む。

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