顧客基点の「ソーシャルメディア戦略」 #04

ソーシャルメディアの価値を、あえて紙のチラシに変換した理由。社内の理解なしに成功はない

社内での共通言語への翻訳が理解を加速させる


 「エンゲージメント」「ロイヤルティ」などの言葉は、ソーシャルメディアの効果や成果を説明する際の頻出単語だ。これらの言葉は使い勝手が良いかもしれないが、誰もが即座に理解できる共通言語ではないことも意識しておく必要がある。

 「エンゲージメントはクリック、いいね!、シェアの合計数です」と伝えても、ソーシャルメディアが身近でない人にとっては、警戒心を高めるだけだ。

 これまでも何度かお伝えしたが、筆者の前職である無印良品は日本企業としては早いタイミングでソーシャルメディアの取り組みを開始した。そのため、他社の成功事例や効果測定の手法として社内共有できる素材がほとんど存在しなかった。

 「ソーシャルメディアは顧客とのエンゲージメントが大事なんです」と声高に訴えても、そもそも「ソーシャルメディア」という単語さえ知らない経営層の頭の中にはクエスチョンマークしか浮かばない。効果測定の考え方は前回も述べたが、筆者が直属の上司たちと考案した社内理解の手法が、「社内の共通言語への翻訳作業」だ。

 週次でソーシャルメディアの成果を定量的な数値として社内共有するために注目したのが「チラシ」と「リーチ数」だった。デジタルメディアなのに、なぜここで「チラシ」なのか?



 当時、無印良品では隔週程度の頻度でチラシを発行していた。そこで「顧客が受け取るチラシ一枚=ソーシャルメディアでの一リーチ」と捉え、公式アカウントでの一週間の投稿のリーチ数を合算、それにチラシ発行一枚あたりのコストを掛けて金額換算した数値を「メディア価値」として定義し、フォロワー/ファン数の推移、各投稿の反応数などと共にソーシャルメディアの成果として、部門長以上が出席する会議で報告するフォーマットを開発した。

 何年も発行を続けていたトラディショナルメディアであるチラシとの比較は、普段デジタルメディアとの接点が少ない人たちにもイメージが湧きやすかったようで、「エンゲージメントとは何か?」を苦労して説明しようとするのではなく、チラシという共通言語への翻訳が、ソーシャルメディアの社内理解を深める大きなきっかけになった(その後、MUJI passportの登場で、毎月数千万円のコストをかけていたチラシ発行を止めたこともお伝えしておきたい)。

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