顧客基点の「ソーシャルメディア戦略」 #12

コロナ禍で地方企業のSNS利用が進む、発信力と連携力を見方にしよう

 

企業同士の連携が発信力を拡張させる


 企業SNSの成功事例と聞くと、東京をはじめ都市部を拠点とする企業の事例が多くなりがちで、いまだに「SNSは都会の人しか使っていない」といった声を聞くこともある。

 確かに山梨県出身である筆者の感覚でも、地元で暮らす同級生たちのSNS利用率は多いとは言えない。小学校からの友人に「しょっちゅう顔を合わせているのにFacebookなんか必要ないだろう」と言われて「なるほど」と思ったが、彼らもTwitterやInstagramは頻繁に利用しているらしく、その目的は現実世界の人間関係の延長ではなく情報収集であると言う。

 2011年の東日本大震災が個人のSNS利用拡大のきっかけになったように、コロナ禍が個人/企業問わず、SNS利用拡大になる可能性は高く、地方においてはそのスピードが一層加速するのではと想像している。

 前述したサツドラも3大都市圏ではないという定義にすれば、地方の取り組みとなるが、続いても地方の取り組みから、新型コロナウイルスによる経済的影響が大きい産業のひとつである飲食業でのSNS活用事例をご紹介しよう。
 
TOGO.YAMANASHI公式Instagramより

 通常の営業が難しくなり、テイクアウトや配達に力を入れている飲食業は多いが、やはりその告知で有効となるのはSNSだ。とは言え、それまでSNS運用を実施していなかった企業が、自社の力だけで短期間でフォロワーを増やし、多くの顧客に情報を届けるのは困難だ。

 筆者の出身地でもある山梨県で運用されているInstagramアカウント「TOGO. YAMANASHI」は、山梨県内の飲食店のお持ち帰り情報を集積し、店舗にとっても、利用者にとっても有益となる情報を日々発信し続けている。

 県内在住クリエイターによる有志のプロジェクトであるTOGO. YAMANASHIは、4月3日にInstagramアカウントが開設された。現在はWebサイト( https://togo.yamanashi.life)も運用しているが、この事例からは「スピード感」「運用の軽さ」「企業横断」の3つを学ぶことが出来る。

 まずは「スピード感」。SNSの特性を現わす言葉だ。原則的に無料、審査も必要なく、誰でもアカウントが開設できるのはSNSならではの利点であり、有事だからこそスピード感重視で、「まずSNSから始める」選択はとても有効である。

 TOGO.YAMANASHIの場合、速報性の高い情報はInstagramで、地域ごとに検索したり詳しく深掘りたいならWebサイトでと、双方の役割も明確だ。

 次に「運用の軽さ」。同アカウントでは、@togo.yamanashi と #togoyamanashi を付けてテイクアウト商品をインスタに投稿することを飲食店に呼びかけ、指定のタグが付けれらた投稿をTOGO. YAMANASHIアカウントのタイムラインやストーリーズでシェアする流れで運用されている。

 飲食店からの投稿を検索し、シェアを続ける作業は物理的に時間もかかり、これを“軽く”と表現してしまうのは申し訳ないが、取材や撮影、原稿制作が必要ないという視点では、独自にコンテンツを制作するよりも圧倒的に短期間で多くのコンテンツを発信することが出来る手法だ。

 そして「企業横断」。筆者が所属する顧客時間の奥谷と岩井も最近、「脱自前主義」という言葉を頻繁に口にするが、何もかもを自社だけの力で解決しようとするのではなく、競合/異業種問わず企業同士の連携が情報発信力を一気に拡張させる。前回 紹介した「#休園中の動物園水族館」もそうだが、TOGO.YAMANASHIでも「#togoyamanashi」のハッシュタグが飲食店同士を繋ぎ、その輪は二重にも三重にも拡がっている。企業の規模に関係なく、このような企業横断の考え方は、改めて見つめ直す機会かもしれない。
 

いま必要なのは、先ずデジタルでつながること


 現実の場での顧客接点を設けることが出来ない中、オンラインでの顧客接点がこれまで以上に重要であるのは言うまでもないが、あまり難しく捉えるのでは無く、単に「つながり続けたい顧客とどのようにつながるか?」「自社の情報を得たい顧客にそれを伝える手段は何か?」と考えれば、やはりデジタルの接点が不可欠なのは必然であるだろう。

 即効性が高いSNSやLINEはもちろん、情報を受け取る顧客もいつもより余剰の時間があるため、じっくり読んでもらうメールマガジンも効果的かもしれない。

 オンラインの顧客接点を活用して情報を発信し、顧客の声に耳を傾ける。コロナ禍は、その重要さを再考するきっかけとなった。

 DXだOMOだと大仰に構える必要は無い。「先ずデジタルでつながること」が必須なのだ。
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