マーケティングの現場から考える「5年後の実際」 #08
サービスとプロモーションが深く結びつく時代、「体験価値」の再定義が必要になる
2020/09/08
体験価値を生み出す2つのアプローチ
最初の事例はIDOMのガリバーオート。通常、買い取りの査定は店頭で1時間はかかる。また、「来店するまでの時間的コスト」「接客されたり交渉を余儀なくされる精神的コスト」がその過程で伴われる。これらのユーザーにとっての苦痛(ペインポイント)を解消するため、買い取りの査定をネットで3分で完結するサービスを生み出したという。それがガリバーオートだ。
面倒から解放されるという体験価値そのものがサービスとなって具現化されたIDOMの例は、いわばマイナスからゼロまたはプラスにするアプローチであり、ひとつ目の体験価値のつくり方だ。
一方、JALでは顧客のライフスタイルの質を高めるという体験価値を提供している。ゼロからプラスにする、二つ目の体験価値のつくり方と言える。JALでは様々なジャンルのファンコミュニティや各地で開催されるイベントなどにおけるファン同士の交流を促進する存在としての一面を持つ。
そこでポイントとなるのは、点での価値提供ではなく、SNSなどを活用した継続的な線としての双方向コミュニケーションだ。それがブランドへの好意度を高め、結果としてLTVの向上に効果的なのだという。
対話がつくり出す体験価値は、LIFULLでも重視している。筆者の前々回の記事でも詳述したが、あらゆるチャネルでのコミュニケーションを、ユーザー主導の双方向型One to Oneコミュニケーションへとシフトさせている。それが長い目で見たときのLTV向上の方策と考えている。
セッションで語られた顧客体験の捉え方や具体的な方法論は三者三様であったが、語られていない側面として「共通の課題がある」と筆者は考える。それは、「単にサービスやメッセージをつくってWebやSNS上に置いておけば、多くの人に体験してもらえるか」と言うと、そう簡単ではないという点だ。
使ってもらわないと分からない価値ならば、プロモーションは「販促」という概念のままではいられない。「体験促進」へと在り方が変化している。これについて、このセッションの事例をもとに、さらに考察していく。