顧客基点の「ソーシャルメディア戦略」 #14
森美術館と中川政七商店の視点。デジタルの顧客接点は、リアルにどんな効果をもたらすのか?
- 前回の記事:
- 「鬼滅の刃」に学ぶ、参加型SNS企画が成功する秘訣
森美術館と中川政七商店の顧客デジタル接点の優先度は?
9月に開催されたオンラインイベント、ネプラス・ユー。筆者は『「SNSなどの顧客デジタル接点」は、事業貢献できるのか?』のテーマで、森美術館 マーケティンググループの洞田貫晋一朗氏と、中川政七商店 取締役CDOの緒方恵氏とともに、顧客とのデジタルの接点がリアルな場に対してどのような効果をもたらしているのか、また、デジタル接点のさらなる活用の可能性についてディスカッションを行なった。
リアルな場が事業の主軸である両社にとって、デジタル接点が持つ役割は何なのか。
ひとことにデジタル接点と言っても、Webサイト、メルマガ、SNS、アプリなど、その種類は多様だ。
まずは両社が有する顧客とのデジタル接点をご覧いただいた上で、当日の様子を振り返りながら、両社のSNS、LINE、メールマガジンなどの活用の実態をご紹介しよう。
リアルとデジタルの両輪で顧客関係を深める森美術館
本連載でも昨今の企業SNSの優れた事例として何度か取り上げている森美術館。前述のデジタル接点優先度でも、Instagramを1位、Facebookを2位に挙げている。
特に筆者は、同社のInstagramに注目をしているが、森美術館 公式Instagramアカウント(@moriartmuseum)の投稿に対してのいいね!やコメントの数だけを追っていては、その優れた運用の真の姿を見失ってしまう。
リアルな場を主戦場とする森美術館にとって、デジタルの基点もやはりリアルの場にある。「シェアやリツイートのような拡散の仕組みが弱いInstagramには最初は消極的だった」と言う洞田貫氏。
しかし運用を始めてみたところ、他のSNSより反応数が圧倒的に多いことに驚いたそうだ。ここで洞田貫氏が注目したのが、Instagramを「顧客参加型」の場として機能させる試みだった。
それまでも森美術館は、アーティストからの協力も得て館内の撮影を可としていた。当然、来館した方たちがそれをSNSに投稿する行為も散見されたが、そんな来館者たちの発信を集約させるため、館内に写真撮影が可能であることと、ハッシュタグを統一するために、付けてほしいハッシュタグを展覧会ごとに定め、それを明記した案内を各所に設置した。
その結果、来館者たちが同じハッシュタグで集う場が形成されることになり、美術館というリアルの場だけでなく、デジタルの場でも顧客との強固な関係を築くことになったのだ。
この事例には緒方氏も、「小売業は店舗での体験を持ち帰りにくい。美術館は顧客の熱量が共有しやすい場であるが、同様の体験を店舗でも提供することが出来るかは小売業の課題でもある」と、深い関心を向けていた。
さらに森美術館では、来館動機を知るために美術館出口の端末でアンケート集計をしている(現在は非接触のQRコードで実施)。その結果によると、来館動機の中でもSNSは常に半数を超えている。
デジタル接点の成果を計測する際、テクニカルな手法を考えがちであるが、このように顧客側も企業側もシンプルな計測手段でSNSの成果を数値として把握している姿勢は、業種問わず参考になるはずだ。
洞田貫氏は、「お客さまが感じた体験や気持ちを発信してもらう行為を、美術館のプロモーションにどのように活かすかを常に模索している」と語るが、「SNSがお客さまの来館動機の背中を押している手応えがある」とも述べる背景には、このように確かな数値による裏付けがあるのだろう。