サントリーが進めるデジタル人材育成講座 #03
なぜデジタル人材育成で、一番大切なのが「ビジネススキル」なのか【サントリー 室元隆志】
デジタルとマスマーケティングの違いを考える
前回、デジタル人材育成に必要な4つのスキルを挙げた。その中で、成果を出すために一番大切なのが「ビジネススキル」、しかも「高度なビジネススキル(=ビジネスアドバンススキル)」だと私は考えている。ここで言うビジネスアドバンススキルは、「ロジカルシンキング」「ファシリテーション」といった類のものだ。なぜこれらのスキルが、デジタル人材育成に必要なのだろうか。従来のマスマーケティングとデジタルマーケティングの違いから考えたい。
従来のマスマーケティングは、ある意味で確率論のマーケティングだと思っている。商品の認知をできるだけ上げるために広告でリーチし、その情報に接触した人の何人かが、店頭で商品に遭遇してトライアルする。そこで、打ち手は「(マス広告による)認知拡大×店頭配荷率」がキモになる。つまり、誰が購買してくれるお客さまかがわからないため、購買ファネルの一番上にある認知や購買意向をテレビCMのGRPと心に刺さるクリエイティブでできる限り、拡げるマーケティングなのだ。
もちろん我々のようなメーカーの場合、良い商品であることは前提だが、ブランドマネジャーの考えるべきことは、「いかに興味を引くクリエイティブをつくり、いかに広範にリーチできるか」と、営業の頑張りで配荷および店頭露出を獲得し、認知されたお客さまと商品の接点が創出できるかに収斂される。
当社の場合、幸いなことに強い営業力があり、かつ伝統的に広告クリエイティブをつくる力も持っている。そのため、宣伝部と広告代理店に広告を任せ、あとはいかに営業に自分のブランド(商品)をプライオリティ高く売ってもらえるかが、実は成功への一番の近道だったりする。
デジタルでは従来の成功パターンが通用しない
一方、デジタル時代になると、この成功パターンが通用しなくなりつつある。今までは、どの年代層(受動的な情報接触態度)にも、大画面から心に刺さるインパクトの大きなテレビCMを届けることができた。それが、デジタルしかもPCからスマホに移行すると、能動的な情報接触態度のユーザーに、テレビと比べると小さな画面に、ユーザーがその瞬間に興味関心がない情報を送っても、スルーされてしまう。加えてデジタルは、テレビのような強力なリーチ力が期待できない。すなわち確率論のマーケティングが通用しにくい世界なのだ。だからこそ、デジタルマーケティングは、マスマーケティングよりはるかに、目的と目標を明らかにし、戦略を絞り込まなければ成功はおぼつかない。そのため、ブランドの課題を明確化した上で、それを事業部門(ブランドマネジャー)や、営業部門と共通理解にしてベクトルを合わせなければ、進めることすらできなくなる。
ところが、事業部門や営業部門からデジタル部門に来る要望は、多くが下記のようなものだ。
「デジタルで何かできない?」(この場合、多くはマスを使える予算がないのでデジタルで何か手を打ちたい。もしくは、得意先から「デジタルで何か提案して」と言われている)。
少しでもデジタルマーケティングを主体的に取り組んでいる方なら、これがうまくいかないのは肌感として分かるのではないだろうか。
つまり、事業(ブランド)や営業課題(あるいはお得意先の課題)からスタートせずに、「デジタルありき」の仕事は絶対にうまくいかないのだ。デジタルは、従来のマスマーケティングのように、投資さえすればリーチを拡大できたテレビCMや、広告代理店にお願いすればクリエイティブが完成するなど、大きくはずさなかった類のものではないのだ。
さて、話が長くなったが、デジタルで成果を出すために、なぜ「アドバンスビジネススキル」が必要かに戻ろう。
デジタルマーケティングをよく理解していない人たちと仕事を進め
それには、デジタルの「How」を知っていることも大事だが、何よりも「課題はどこにあるか」を突き詰め、それをブランド担当者や営業部門の担当者から引き出し、デジタルキャンペーンの目的と目標を明確化するスキルが大切になる。
それが「ロジカルシンキング」や「ファシリテーション」のスキルなのである。この課題の見極めなくして、デジタルの成功はない。あったとしても、まぐれ当たりだと私は思っている。