サントリーが進めるデジタル人材育成講座 #03
なぜデジタル人材育成で、一番大切なのが「ビジネススキル」なのか【サントリー 室元隆志】
バーボンのキャンペーンが成功した理由
ひとつ例をあげよう。2014年頃、「メーカーズマーク」というバーボンのキャンペーンを仕掛けた。ご多分にもれず、最初のスタートは「何かデジタルでできない?」という事業部からの相談から始まった。そこで、我々はデジタルで顕著な成果を上げるため、まずはブランドの課題を掘り下げた。
このブランドは古くから日本で別の販売代理店が取り扱いしており、バー業態では、なんと95%の配荷がある商品だったが、あまり売れていなかった。というのも、バーには少なくても200~300本のボトルが並んでいて、その中から「この一本が選ばれる理由」がなかったのだ。
「メーカーズマーク」は、特異なボトルシェイプをしているため、バーに行く人であれば、どこかで必ず目にしている(名前は覚えていなくてもボトルは見たことがある)商品だった。
そこで我々は、バーユーザーにターゲットを絞込み、デジタルマーケティングの目的を「メーカーズマーク」のリマインドと飲む理由の創出にフォーカスした。
メーカーズマークの赤い蝋が垂れたようなボトルは、実際に欧米の「封蝋」(大事な人に宛てた書簡を封蝋で綴じる風習)に倣って、実際に一本一本、手作業で赤い蝋をボトルにつけているというブランドストーリーがあった。
そこで、デジタル上のインフルエンサーに、このボトルの封蝋体験をしてもらい、「なぜこの一本を選ぶのか」という理由をデジタル上で広めた。そして、当社が運営する日本最大級のバー検索サイト「バーナビ」のユーザーに集中的にリターゲティングしたところ、営業の頑張りと相まって、一気にキャンペーン実施時期に業務用の数字が跳ねた。
きっちりとした、ブランド課題の掘り下げがなければ、表面的なデジタル施策で失敗に終わっていただろう(当時は、まだユーザーが極めて限られた範囲にしかいなかったことと、小売店頭の配荷率が低かったので、マスに近い施策では絶対にうまくいかなかった)。
私が「アドバンスビジネススキル」を重要視する理由が理解いただけただろうか。本来、このようなブランド課題や営業課題は、それぞれの部門が考えなくてはならないことだが、デジタルマーケティングでは、まだまだ難しいのが実情なのだ。そこで、ビジネススキルを用いて、他部門の課題を吸い上げ、そのための施策を考え、説明しなければならない。
次回は、このデジタル部門の人材育成と、他部門への影響力をどう持つべきなのか、というお話をしたいと思う。
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