顧客基点の「ソーシャルメディア戦略」 #15

昨今の企業SNSの炎上は、残念ながら顧客戦略の不明確さに帰結する

 

担当者が向き合うのはフォロワーではなく「顧客」である


 考えなければならないのは、どうしてこういった問題が起きてしまうかだ。本連載の1回目で、「担当者の個性を活かした運用=ソーシャルメディアの成功パターン」、つまり面白い発言でバズらせたりすることを成功として捉えるような、担当者任せの運用スタイルに問題提起をさせていただいた。

 「拡散」はSNSの大きな魅力ではあるが、「いつもバズりまくっている◯◯◯のようなアカウントになりたい」と願い、バズりや拡散ばかりを日々追い求めている企業アカウントが一定数存在することが、間違いが起こってしまう一因と言える。

 もう一歩踏み込むと、そもそも企業SNS運用において最低限定める必要がある基本中の基本事項の「誰に」「何を」情報発信するものなのかの設計が曖昧であること、つまり顧客戦略が不明確のまま運用し続けていることも、間違った選択をしてしまう要因であるだろう。

 一つひとつの投稿のリツイート数やいいね数ばかりを注視し、「フォロワー」に「バズるようなネタ」を投稿する運用になっていないだろうか。

 フォロワーは情報発信対象者の一部の方々であり、企業として向き合うべきは「顧客」だ。

 どの企業アカウントも、運用開始当初は顧客に向けての情報発信を考えていたはずだが、バズりやSNS内の反応に酔ってしまい、いつの間にか顧客を忘れ、フォロワーからの反応を得ることばかりに目を向けてしまっていないだろうか。

 信頼を築くには長い期間が必要だが、苦労して築いた信頼も失うときは一瞬だ。
「SNSだから」という言い訳は通用しない。

 企業SNS全体の信頼や地位を失墜させないためにも、このような事例を学びの場として捉え、運用担当者のみなさんには改めて自社アカウント運用の現状について一考する機会にしていただきたい。


 

大切なのは、「誰に」「何を」発信するか


 ちょっとしたことでも責められやすい世の中でもあるため、慎重にならざるを得ない場面も多いが、決して発信自体を抑制し、みんな品行方正で真面目にやりましょうと言っているのではない。

 リアル店舗を有する小売業や飲食業の店舗スタッフが、顔馴染みの顧客と冗談を言い合ったり、趣味などの話をしたりすることも、接客の中ではよくある光景だ。むしろ、企業と顧客が対等の関係で対話できるSNSだからこそ、やわらかい発言やユーモアも上手に取り入れてほしい。

 大切なのは「誰に」「何を」発信することが目的なのかを、担当者としても企業としても意識し、自社のアカウントはそれに沿った運用になっているかを再確認することである。

 今回の件で運用が停止してしまっているアカウントが再びSNSの活用を再開することを願っている。まだまだ大変な世の中ではあるが、「SNSが事業回復の兆しとなった」と言われる可能性を、企業SNSは十分秘めていると筆者は考えている。

 企業SNS担当者のみなさん、2021年はそんな成功事例を多数世に放つ一年にしていきましょう!
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