サントリーが進めるデジタル人材育成講座 #06
サントリーのデジタル部門が大切にする「真のユーザーを見る力」
マーケティングが最も失敗してしまう典型例
前回、デジタル人材を育成する際に、最初にインストールする基本フレームワークの話をした。ゴールの設定やシナリオを描く力も大切だが、最終回では、特に重要な「ユーザーを見る力」について触れたいと思う。これまで何度か言及してきたように、デジタルにおいては、従来のマスマーケティングで行っていたデモグラフィック的なユーザー像の分析だけを行っていては、成果を上げることができない。デジタルで成果を上げるために狙う、ユーザーを理解しなくてはならないのだ。
“社内あるある”の典型例に、この「ユーザー理解」を大きく取り違えていることがある。「販売部門がこう言っているので」「お得意先からこういう要望があるので」といった類のものだ。
当社のような最終消費者を相手にする消費財メーカーでは、商品をお取扱いいただく流通や業務店の方々が存在する。しかし、社内の販売部門の意向や、お得意先から言われた断片的な課題ばかりを見てしまい、最終消費者(マーケティング対象)の解決すべき課題を見なくなってしまうことがある。
「お得意先の売上を上げるために本当に必要なのは、新規ユーザーの獲得なのか」「販売部門から依頼された施策を打てば、本当にユーザーは思ったとおりの行動をしてくれるのか」
こういった問いがクリアになっていないまま、他部門からデジタル部門に依頼がくることは珍しい話ではない。往々にして「ユーザーはこういう人たちだから、この行動をとる」や「売上を増やすためには新規ユーザーでしょ」という思い込みによるものが多い。「真のユーザー」を見ないまま、チャネルや社内を見ているケース、これは最も失敗してしまう典型例だ。
デジタルは、お客さま(エンドユーザー)の意思によって選択され、利用され、またはスルーされるものなのだ。テレビCMのような強力なリーチや訴求力を前提にしたマーケティングスキームでは、うまくいかない。
その課題を解決するのは、本当に必要なのは新規ユーザーなのだろうか。現在の売上を担っているのは、誰なのか(自社でECサイトを運営している企業であれば、当然分析しているが、消費財メーカーにとって、流通の先にいるお客さまの分析はデジタル以前は難しかった)。
そうした分析の結果、本当に売上を支えるのが新規ユーザーであるならば、そのユーザーはなぜ購買に至るのだろうか。それを理解しなければ、ユーザーとどのような接点をつくり、何を訴求したらいいかは、まるでわからない。それを行なわない “だろう”マーケティングがなんと多いことか。
我々の部門では、売上を上げてくれるユーザーを分析したら、次には「なぜ、そのユーザーは我々の商品(もしくは同じカテゴリの商品)を購買したのか」という、「なぜ」を理解するように促している。
では、その「なぜ?」は、どうすればわかるのだろうか。