マーケティングの現場から考える「5年後の実際」 #01

私がCRM・マーケティングオートメーションに限界がきていると考えた理由【LIFULL菅野勇太】

窮地に陥るまでの過程を告白する

 皆さんは、単に広告やメールをセグメント別に配信しているだけなのに、漠然と「One to Oneマーケティング」に取り組んでいることにしていないだろうか。

 私も漠然と「One to One(といいつつセグメント配信)」を志向してきたが、その効果は踊り場に来ている。私は何とかして、この困難を脱したいと思っている。

 今から10年前。2008年に私のマーケターとしてのキャリアがスタートした。最初に手掛けたOne to One志向のプロジェクトは、“バナー祭り”だった。バナー広告の効果改善のため社内のデザイナーを複数人巻き込み、20種前後のクリエイティブを制作して、人力でセグメント配信を行った。しかし、それが全くと言っていいほど、効果がでなかった。

 バナーのバリエーションに対して、セグメントに使う情報が薄すぎたためか、一斉配信と効果は変わらなかったのだ。着想は良くても、技術が追い付いていなかった。報われなかったデザイナーからの視線が忘れられない。

 同時期に、広告の自動入札もいち早く取り入れた。機械学習という言葉がマーケティング現場で聞きなれない頃、Efficient FrontierやMicroAd BLADEといった(当時)謎のプレイヤーが説明する最適化アルゴリズムは理解できなかったが、異様に発達してきたアドテクの世界でOne to Oneを実現する期待感があった。しかし結局は、金融工学の応用の域を出なかった。



 カスタマージャーニーにも力を入れた。メタファーを活用したユーザー調査を行い、ユーザーの感情や行動に寄り添うことで、集客やサービスのあるべき立ち振る舞いを考えることはできた。しかし、これをユーザーのコンバージョンへと導く態度変容の攻略本として活用しようとすると途端にうまくいかない。ジャーニーのペルソナとしてユーザー全体の平均を表すようなものを作ってしまうと、それに紐づく施策のパンチ力も全体的に低下するためだ。平均的なユーザーは往々にして少ないし、ジャーニーで考慮されないユーザーは置き去りにされる。むしろOne to Oneとは、対極の概念だった。
 

ツールを入れてみたものの効果が出ない・・・

 2013年、国内初の事例となるBtoC向けマーケティングオートメーションを導入した。これによって地殻変動的にユーザー1人当たりの売上転換率が向上し、One to One(といいつつきめの細かいセグメント配信)の威力を体感した。自社データ、それもコンバージョン直後のリピート促進という分かり易い条件下でのシナリオ配信だけあって成果はあった。要は誰が何を欲しているかがよく見えていた。業界的にも「DMP+MA」で盛り上がりを見せた。

 しかし、そこからの成長は鈍化した。

 ここ5年間は、ずっと踊り場だ。手数は出しているがインパクトのある数字の改善は進んでいない。身近な他社のマーケターからも、同じような話をよく聞く。One to Oneを実現しようと巨額のIT投資、人員投下をしてもせいぜいセグメント別のオートメーション配信が10~20シナリオ動いている状態をつくっただけ。それも限られた人の頭で考えた仮説によるルールベースの代物。それでかけたコストを取り返すだけの効果が得られないのは当たり前である。

 「ガジェット好きは趣味だけにしておけ!」という、ディノス・セシール 石川森生さんの言葉が、ツールを入れてみたが効果が出ないことの本質的な理由をよく言い当てている。(参考記事

 コンシェルジュやバトラーのように、本質的な顧客の要望を見抜いて課題解決するには程遠く、無限のヒューマンリソースがあるならば、それと比べてセグメント配信は極めて非効率なコミュニケーションシステムだ。

 長らく顧客のカスタマージャーニーやスコアリング、エンゲージメントといった概念を用い、アドテク、マーケティングオートメーション、CRMといったツールを専門として扱ってきたが、人間の発想力に効果が依存するこれらの道具には限界が来ていると感じ始めている。

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