ビジネスにイノベーションを起こす「思考法」 #番外編02

「日本のマーケターも捨てたもんじゃない」 成長に必要なのは、知識の獲得

前回の記事:
マーケターの必須スキル 「事象を抽象化して、概念化する力」は、どうすれば身に付く?
 P&Gはじめ国内外でマーケティングを指揮してきた、クー・マーケティング・カンパニー 代表の音部大輔氏が考えるマーケターに必要なスキルとは何か。早稲田大学 商学学術院教授の守口剛教授の新著『プロフェッショナルマーケター』に収録された記事を、書籍に掲載し切れなかった内容を含めて、アジェンダノート特別編集ロングバージョンとしてお届けします。
 
書籍『プロフェッショナルマーケター』。今回の対談はじめ、多数のプロフェッショナルマーケターが登場。音部大輔氏、足立光氏、大江弘祥氏、奥谷孝司氏、清水俊明氏のインタビューは田岡氏が担当。
 

人間への認識は、マーケターの最も重要なスキルのひとつ


田岡 音部さんは、マーケターの育成に熱心に取り組んでいるようにお見受けしますが、日本のマーケターがブレイクするために必要なことは何だと思いますか。

音部 
まず前提として、どうしようもなくダメな人は、あまり見たことがないように思います。組織と成長の仕組みが強固であれば、何とかなります。

そして、競合の自損事故や為替、外国人旅行客などの外的要因と関係なくビジネスが伸びているときは、組織が強くなっているのだと思います。P&Gでも資生堂でも、いま私が支援している会社にしても、あまり例外はなさそうです。
音部 大輔氏
クー・マーケティング・カンパニー / 代表
P&Gジャパン、マーケティング本部に17年間在籍し、ブランドマネジャー、マーケティングディレクターとしてアリエール、ファブリーズ、アテント、パンパースなどのブランドを担当し、市場創造やシェアの回復を実現。のちにUS本社チームでイノベーションの知識開発をマーケティングとして主導。帰国後、ダノンジャパン、ユニリーバ・ジャパン、日産自動車、資生堂など多様な文化背景、製品分野で、複数ブランド群を成長させるブランドマネジメント、組織構築、人材育成を指揮。2018年より現職。博士(経営学 神戸大学)。

田岡 「組織が強くなる」というのは、どのような意味でしょうか。

音部 
はい。これには様々な解釈があると思いますが、私は「昨日できなかったことが、明日できるようになること」と定義しています。なぜできるようになるかと言うと、今日やり方が分かったから。

ということは、成長は知識なんです。大事なのは、それだけなんです。つまり、組織の成長とは、知識が確立した状況を指します。だとすると、育成は「ナレッジマネジメント」と言い換えることができます。

それにはいろいろな要素がありますが、私は、いかに知識を「収集・蓄積・流通」するか、この3点に尽きると思っています。

今まで落としてしまっていた日々のラーニングを拾い、体系化して、みんなで流通するという仕組みができれば、これを運用する能力を持つことで十分に成長できます。そして、正しいトレーニングがなされれば、この能力は大概の人が持つことができます。

例えば、人が自分の肉体だけで時速60キロで走るのは無理だけど、車を与えて運転方法を教えれば、みんながそのスピードで移動できるようになるのと同じです。

さらに、そのサイクルが回るよう、今年のラーニングを否が応でも来年に反映せざるを得ない仕組みにします。余裕があれば、マーケティングバジェットの3~5%程度を実験用にする。

このブランドは大量の格安動画で多面的なトライアル獲得を実験しよう、あのブランドはレンタルWi-fiからインバウンド向けにメッセージを送れるサービスを研究しよう、などと決める。そして研究成果をみんなで共有すると、1年で3年分のラーニングが得られたりします。1年で3年分の知識が得られれば、組織が強くならないわけがなく、それでビジネスが伸びないなんてわけがないんです。

田岡 
なるほど。では、よく言われるような、「日本人は、ロジカルシンキング力が足りない」「チャレンジするマインドセットがない」は、あまり関係ないということでしょうか。
田岡敬氏
エトヴォス 取締役 COO
リクルート、ポケモン 法務部長(Pokemon USA, Inc. SVP)、マッキンゼー、ナチュラルローソン 執行役員、IMJ 常務執行役員、JIMOS(化粧品通販会社)代表取締役社長を経て、ニトリホールディングス 上席執行役員。2019年1月21日より、エトヴォス 取締役 COO。

音部 
私は関係ないと思います。スポーツにたとえると、基礎体力や身体能力は低くないけれど、正しいフォームをトレーニングできていない状態に近いと思います。

田岡 
ちなみに、具体的なスキルの欠如というケースはありますか。

音部 
「ないことは、ない」と思いますが、それが致命的になった経験はない気がしますね。

田岡 
日本のマーケターも捨てたもんじゃない、ということですね。

音部 
そのとおりです。ただ、正確なフォームではないことがあるので、ロジカルに考えることを意識して、練習してほしいと思います。これを、アイデアが何かしらの一貫性を持ってひとつの経路上に出てくることだとすると、出発地点(現状)と目標地点を定めてやれば、構造的にバラバラになり得ないはずです。そして目標地点に真っすぐ向かうためには、目的の確認が必要になります。

田岡 
音部さんの書籍には、「目的」という単語が何百回も出てきます。

音部 
(笑)、何度も目的と言うと最初は、すごく嫌がられるのですが、みんなすぐに慣れて目的を確認してから行動するようになります。そうすると、人間は目的に合わないことを直感的にしたくないようで、目的から逸脱した行動をあまり起こさないようになるんですよ。

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