ビジネスにイノベーションを起こす「思考法」 #48

ファッションのサブスクで大注目。エアークローゼット天沼社長が語る「顧客価値の根幹」

前回の記事:
表向きは「そうですね」裏では「やらなくていい」に直面。 オルビス小林琢磨社長は、どう組織改革を断行したのか
 エトヴォス 取締役COO田岡敬氏が第一線で活躍するビジネスパーソンから、その人がキャリアを切り開いてきた背景やイノベーションを生み出してきた思考法を探っていく連載企画。第21回はエアークローゼット 代表取締役社長 兼 CEOの天沼聰氏が登場します。

 天沼氏は2014年にエアークローゼットを創業し、スタイリストがコーディネートした洋服を月額制で借りられる女性向けファッションレンタルサービス「airCloset(エアークローゼット)」をリリース。2020年2月には登録数が30万人を超えました。ITコンサルや楽天などを経て経営者として活躍する、天沼氏にビジネスモデルの背景や信念などについて聞きました。
 

完全に「パーソナライズされたスタイリング」をお客さまに


田岡 「airCloset」は、スタイリストが選んだ洋服をユーザーのサイズや体型、ファッションの悩みや好みに合わせ送るという月額定額制のレンタルサービスです。その仕組みの裏側は、どのようになっているのでしょうか。

天沼 
まずエアークローゼットには250人以上のスタイリストが登録スタッフとして在籍し、スタイリングしています。あらかじめ同じコーディネートを組んでおくのではなく、完全に一人ひとりにパーソナライズしているんです。    
天沼聰
エアークローゼット 代表取締役社長 兼 CEO
1979年生まれ、千葉県出身。ロンドン大学にて情報・経営を学び、帰国後アビームコンサルティングにて IT・戦略コンサルタントを約9年間従事。2011年、楽天に移籍し、 UI/UXに特化したWebのグローバルマネージャーを務める。2014年7月、「“ワクワク”が空気のようにあたりまえになる世界へ」をビジョンを掲げ、エアークローゼットを創業。2015年2月、日本初の普段着に特化したファッションレンタルサービス「airCloset」を立ち上げる。EY Entrepreneur Of The Year 2017、JapanVentureAwards2018、デロイト日本テクノロジー Fast50にて売上げ成長率日本第1位など数々の受賞歴あり。

田岡 新規申込者に対しても、最初からパーソナライズしているのですか。

天沼 
そうです。でも、田岡さんがおっしゃる通りで、新規申込者への1回目にはセットで送って好みを当てやすくするという議論もありますが、現在は登録ステップの中でしっかり好みを聞いているため、お客さまごとにコーディネートを組み立てているんです。
 
「airCloset」

田岡 では、過去のユーザーのデータなどを参考にしながら当てにいくわけですね。

天沼 
はい。こういったケースであれば、これが合うだろうと考えて選びます。そして、お客さまからフィードバックとして、「お貸し出した3着が気に入ったか」「サイズは合っていたか」などの感想をいただきます。

例えば、「スカートの丈が短かった」と答えたお客さまに59センチの長さのスカートを送っていたとしたら、次に同じようなスカートを届けるときは63センチのものにして、さらに「今度は長い」とフィードバックが来たら、その次はその間の長さのスカートを送れば、その人の好みに合うと考えていくわけです。

田岡 
なるほど、一旦アンケート結果などを基にその人の好みに合う服を自動的に絞って、そこにスタイリストが調整を加えていく流れですね。  
   
田岡 敬
エトヴォス 取締役 COO
リクルート、ポケモン 法務部長(Pokemon USA, Inc. SVP)、マッキンゼー、ナチュラルローソン 執行役員、IMJ 常務執行役員、JIMOS(化粧品通販会社)代表取締役社長を経て、ニトリホールディングス 上席執行役員。2019年1月21日より、エトヴォス 取締役 COO。
 
天沼 
はい。さらに流行などで全体の傾向が変わってきた場合は、システム上で係数を加算します。加えて、そのときの季節に合わない、またはその人が「送ってほしくない」と答えたテイストのアイテムは表示させないなど、スタイリストがお洋服を選ぶ際に使うシステムを独自開発して効率化を図っています。

田岡 
ユーザーの好みを外さないことに加えて、「意外性を提供することも大事だ」とお話されていたインタビューを読みました。

天沼 
そうですね。基本的に3着送るうちの1着は意外性があるというバランスにしています。ただ、お客さまの中には新しい服にチャレンジしたいという方もいれば、あまりチャレンジしたくないという方もいます。そこはご要望を聞かせていただいたり、登録ステップの中でユーザーの「チャレンジ度合い」を測ったりしながら参考にしています。


 
登録時のアンケートフォーム。身長や洋服サイズ、悩みのほか、スタイリストに伝えたいこと、利用シーンなどについて聞いている。5分程度で簡単に回答できる。

田岡 
そうすると、アパレルのサブスクリプションモデルというよりも、Uberのようなマッチングビジネスと表現した方が、ニュアンスとしては近いんでしょうか。

天沼 
おっしゃる通りですね。どちらかと言えば、我われはレンタルサービスというよりもマッチングサービスだと思っています。その精度を高めて、お客さまに質の高い「お洋服との新しい出会い」を短い時間で提供することが価値の根幹にあるんです。

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