日本の広告最新事例を世界の潮流から読み解く #11
日本「シズル」型 vs欧米「コンセプト」型。キリンのレモンサワーが描く海辺のイイ時間CM
私は長年、多くの広告コミュニケーションの海外事例を紹介、その分析に努めているのですが、この連載では、いつもとはある意味では逆に、まず日本の話題作に目を向けて解説し、そのうえで、その意図や施策の在り方が、海外のどんな潮流と関連しているのかについて考えていこうと思います。実際、日本で話題になった事例の中には、海外のトレンドの延長線上にあるものが、少なからず存在しています。今回は、その第11回です。
ミスチルの楽曲で“海辺の上質な時間”を描くテレビCM
「シズル」という言葉をご存じだろうか? 英語だと「sizzle」で、元々は“肉が美味しそうにジュージュー焼ける音”を指すという。
それが転じて、美味しそうなビールの泡や、美味しそうにプリプリしている食べ物を撮影した映像を「シズルカット」と呼ぶようになった。
しかし、そうした使い方はまだまだ狭義であり、広告業界ではより広義に「その製品らしさ」といった意味で用いられる。
例えば、クルマの広告だと“走りのシズル感”や、高額商品広告での“高そうなシズル感”などとして使われる。さらには動詞化して、“らしさ”を感じて心が動かされるといったニュアンスで、「シズるねぇ」と言われることもある。
欧米の広告でも狭義のシズルカットは存在するが、日本の広告に見られるような「シズル感」に特化した広告はあまり見られない。この「シズル感」型で最近、記憶に残っているのは、麒麟特製レモンサワーの広告だ。
お笑いタレントのウッチャン(内村光良さん)が、海辺で友人と「上質なイイ時間」を過ごしている。もちろんウッチャンも重要な役割を果たしているものの、本当の主役はこの「海辺での上質なイイ時間」である。
もちろん広告としては「いい酒と過ごす、イイ時間」を伝えており、要所ではお酒の「シズルカット」も付け加えられる。バックに流れるのは、人気バンドMr.Childrenのとてもエモーショナルな楽曲「others」だ。
このテレビCMが流れるたびに、筆者が暮らす都心のマンションの一室にも、心地よい海辺の風が吹いて来そうな気分になる。
同じシリーズで、タレントの中村アンさんを起用しているのも同様の構造だ。アンさんがメインで映っているが、自分にはこのテレビCMの主役は、どう見ても「海辺での上質なイイ時間」だと感じられる。
そこでは、このイイ時間こそが、麒麟特製レモンサワー(あるいはキリン・ザ・ストロング)を飲んでいる時の“らしさ”、シズル感なのである。