日本の広告最新事例を世界の潮流から読み解く #12

ブランド訴求しながらゴリゴリのサービス情報も。UQモバイルに代表される日本独自のCM手法とは?

前回の記事:
日本「シズル」型 vs欧米「コンセプト」型。キリンのレモンサワーが描く海辺のイイ時間CM
 私は長年、多くの広告コミュニケーションの海外事例を紹介、その分析に努めているのですが、この連載では、いつもとはある意味では逆に、まず日本の話題作に目を向けて解説し、そのうえで、その意図や施策の在り方が、海外のどんな潮流と関連しているのかについて考えていこうと思います。今回は、その第12回です。
 

次々と新バージョンを繰り出す。UQモバイルのCM手法


 一般に広告表現には、ブランディング目的のものとプロモーション目的のものがある。簡単に言えば、前者は、ブランドを認識させ、好感を持ってもらい、競合他社よりも選んでもらいやすい状況に持っていくことを狙う。対するに、後者は、具体的な機能や割引の訴求など、直接的に販売につながることを狙う。

 両者はどちらも欠かせないものだが、一挙に訴求するのは難しく、異なるバージョンとして制作されるケースもある。例えば、以前この連載でも紹介したヘアケアのP&G「パンテーン」では、「令和の就活ヘアをもっと自由に」篇でブランディングを行い、有村架純を起用した「夕方5時のうねり髪に、さよなら!」篇でプロモーションを目指したと考えられる。

 この2つの目的を一挙に解決しようとする手法が、シリーズ化によってある種のブランド訴求をしつつ、明示的なメッセージの内容は割引などとし、プロモーション情報が変わるたびに新バージョンを制作して流すというやり方だ。auの「三太郎シリーズ」や、家庭教師のトライの『アルプスの少女ハイジ』を利用した「教えて!トライさん」シリーズもこうした特徴を持っているが、今回はUQモバイルの最新テレビCMを取り上げてみよう。

 3人の人気女性タレント(深田恭子・永野芽郁・多部未華子)が、気になるポーズで静止したまま現れる。今回は男性用の学生服をまとっていて、窓の外からはガチャピンらが覗いている。「俺たち、なんで制服なの?」(往年の大ヒット曲「UFO」のイントロ)「いいんじゃない学割のCMらしくて」「なんで男の子なの?」「いいじゃない、自由な時代よ」と会話が続き、元歌の♪UFO♪のところで、3人が「「♪UQ♪」」と歌う。
 
『UQ三兄弟』篇 TVCM(30秒)

 ここまでで約20秒。この後は、「学生も家族も900円。UQ学割」というプロモーショナルなメッセージが続く。この最後の部分は、家族割だったり、スマホ本体コミコミだったり、とバージョンごとに異なっている。

 最初の20秒は、UQモバイルのある種のブランディングになっていると言える。『あの3人が出ていて静止していて、シュールなやり取りをして、♪UQ♪って言うやつね』と覚えることになり、“なんだか面白い、退屈じゃない携帯サービス”といった認識の醸成も可能だ。それと同時に、割引情報などと上手につなげて、プロモーショナルな情報も際立つ構成になっている。

 こうした方法論は日本独自で、世界でもあまり例を見ないのではないだろうか。

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