日本の広告最新事例を世界の潮流から読み解く #18
クマしか映らないテレビCMで、あの大企業は、いったい何がやりたいのだろう?という疑問に答えます
私は長年、多くの広告コミュニケーションの海外事例を紹介、その分析に努めているのですが、この連載では、いつもとはある意味では逆に、まず日本の話題作に目を向けて解説し、そのうえで、その意図や施策の在り方が、海外のどんな潮流と関連しているのかについて考えていこうと思います。今回は、その第18回です。
「日清紡~、名前は知ってるけど~♪」という歌とクマの奇妙な動き
かなりの頻度でテレビから流れてくる「日清紡~、名前は知ってるけど~♪、日清紡~、何をやってるかは知らない♪」の歌。画面に映っているのは、奇妙な動きをしているクマだけ。同社のニュースリリースによれば、『クマーシャル劇場』と名付けて3篇・全10作品を流しています。
しかし、真面目な視聴者の方だと、「結局、何をやっている会社なのか、ちっとも分からないじゃないか!」と少しイラつく場合さえあるようです。そこまでいかなくても、「どれだけテレビCMを流したって、それを観た人が日清紡の製品を買うとは考えにくく、いったい何のために多額の費用を投入しているのだろう?」といぶかる方は少なくないのでないでしょうか。
一般的にテレビCMなどの広告を流すのは、カップ麺や機能性飲料、ファッション用品など、消費者が直接購入するものを取り扱う、いわゆるB to C(Business to Consumer)企業が中心だと言われています。美味しさや身体へのサポート具合など、何らかのベネフィット(便益)を訴えて、消費者に「買いたい!」と思ってもらい購入してもらうのが主な目的です。
それに対して日清紡は、いわゆるB to B(Business to Business)の企業です。お客さまは企業の人であり、テレビCMを見た人が買いたくなって購入できるような製品を取り扱っていません。であれば、名前を知ってもらう(企業認知の向上)ためとは言え、何もあんな奇妙なテレビCMを、あんなにたくさん流す必要は無いのではないでしょうか?
ところが、理由はきちんとあるのです。そして、きっと効果もきちんとあるのでしょう。そうでもなければ、ただ面白いからと言って、従業員2万人を超える巨大企業が、長年にわたって(以前は犬が登場するテレビCMでした)同様のアプローチを続けるはずがありません。
そこで考えられる理由は、2つです。ひとつは、リクルート対策。新卒採用・中途採用含めて、優秀な人材を確保するためには、とにかく知名度が重要で、新卒採用で言えば、ご両親の賛同にも繋がります。また、イマドキの若者は、自分の勉強した専門が堅いものであっても、楽しそうな企業に惹かれるところがあり、ああしたアプローチは一定の効果があるのでしょう。
もうひとつは、実は「営業支援」だと考えられます。B to B企業の営業活動と言っても、基本は人vs人です。いきなり製品やサービスの細かい点を話すのではなく、前振りや挨拶もあるでしょう。そうした時に、「オタクの会社、今度はクマなんだね」などという会話を交わせることは、立派な営業支援になるようです。