日本の広告最新事例を世界の潮流から読み解く #22

メッセージと伝え方のミスマッチは、炎上につながる。あの品川の件を考察してみた

前回の記事:
クルマがまったく動かないが、成立する。固定観念を捨て去ったダイハツのテレビCM
 私は長年、多くの広告コミュニケーションの海外事例を紹介、その分析に努めているのですが、この連載では、いつもとはある意味では逆に、まず日本の話題作に目を向けて解説し、そのうえで、その意図や施策の在り方が、海外のどんな潮流と関連しているのかについて考えて行こうと思います。今回は、その第22回です。
 

「今日の仕事は 楽しみですか。」はなぜ炎上したのか?


 広告コミュニケーションの初歩として、「What to say」と「How to say」に分けて考えるというものがあります。「What to say」とは、何を言うべきか? つまり、伝える内容やメッセージです。「How to say」は、いかに言うべきか? つまり、メッセージをどのように伝えるかその方法です。また「How to say」は掲載メディアによって最適なものが変わるとも言われています。

 少し前に、働き方改革支援を業務とする会社が品川駅コンコースで大量に出稿した広告が炎上して、Webサイトに謝罪文を掲載し1日で取り下げるという事態が発生しました。

 「今日の仕事は 楽しみですか。」というメッセージに対して、「仕事は楽しみじゃなきゃいけないのか」や「つらくてもなんとか仕事を頑張っている人を傷つける言葉だ」といった批判が相ついだと言います。

 一方でこの炎上に対して、SNS上では「このメッセージでなぜ怒る人がいるのか分からない」や「楽しんで働いた方がいいに決まっている」といった“批判への批判”も複数目にしました。

 本記事では、このメッセージ=What to sayの是非については、言及しません。そうではなくて、この内容のメッセージを送る際のHow to sayの在り方について、載せるメディアの選定も含めて考えてみたいと思います。

 実は同内容の広告は、品川コンコースでの広告以前に、新聞広告として出稿されていたようです。そこには同じキャッチフレーズに加えて、発信者である社名が大きく記されています。
 
 また解説に当たるボディコピーもあり、その中で自分たちのことを、“人の変革を通じて、イノベーションが社内から生み出される企業づくりを支援する「変革ドライブカンパニー」”で“新規事業の生まれる組織づくりをサポート”すると紹介しています。

 こちらの会社はBtoBの企業であり、この広告は潜在的な顧客企業の担当者に向けられたものと考えられます。この新聞広告は、多くの批判を浴びたものとほぼ同内容なのに、私が知る限りまったく“炎上していない”のです。「What to say」と「How to say」が、新聞広告というメディア選定も含めて、それなりに整合性が取れていたのでしょう。

 新聞広告を少しアレンジしたものが、問題となった品川駅コンコース広告です。こちらはデジタル・サイネージと呼ばれる動画を流せる屋外媒体で、当該広告も文字だけを使った15秒の動画なのです。基本的に自宅で座って見るテレビCMと違って、通勤など目的があって歩いているところに掲示されるこの動画広告は、15秒すべて見る人は少ないでしょう。しかし、新聞広告のHow to sayはすべての要素を見てもらうことを前提につくられています。

 従って、送り手は当該の「What to say」を伝えようとするのならば、このコンコースのデジタル・サイネージをメディアとして使用するべきではなかったと考えられます。もし使うのであれば、少なくてもそれに相応しい「How to say」を新しく開発するべきで、新聞広告の修正版を使用するべきではなかった。
 
品川駅コンコース

 なおかつ、このデジタル・サイネージは、コンコースの両側に44面もあり、ある瞬間には大画面で「今日の仕事は 楽しみですか。」と44か所から詰め寄られる感じになる。しかも、誰がどういう意図で言っているかも分からない。これでは暴力的な物言いに感じられる。この会社のメッセージとしてWhat to sayの内容に一定の意味があったとしても、見た人の中に不快に感じる人が出るのは、当然と言えば当然だったのではないでしょうか。

 さらに、この広告が強烈に炎上したのは、広告主企業の関係者が、問題となったキャッチフレーズが44面に表示されている瞬間を撮影し、自身のSNSに投稿した画像がきっかけだったようなのですが・・・。

 いずれにしろ、この「What to say」は、あの場所(メディア)で、あの「How to say」で発信されるべきではなかった。“メッセージ”と“伝え方”がミスマッチだったと言わざるを得ないかと思います。

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