日本の広告最新事例を世界の潮流から読み解く #26
成増駅が「なりもす駅」に。東武鉄道とのコラボで、50周年を印象づけたモスバーガーの戦略
私は長年、多くの広告コミュニケーションの海外事例を紹介、その分析に努めているのですが、この連載では、いつもとはある意味では逆に、まず日本の話題作に目を向けて解説し、そのうえで、その意図や施策の在り方が、海外のどんな潮流と関連しているのかについて考えていこうと思います。今回は、その第26回です。
名前は普通変えないので、大きなインパクトを生む
モスバーガーは、1972年に東武線成増駅近くで創業した、日本生まれの人気ハンバーガーチェーン(業界2位)です。板橋区に位置する成増は、県境に近く時に「東京のはしっこ」や「ギリギリ東京」などとも言われる地域。米国生まれのマクドナルドが前年1971年に銀座に第1号店をオープンしたことを考えると、1号店出店の地域からして2つのハンバーガー・チェーンは著しく異なっていますよね。
その後もモスバーガーは、銀座や新宿などの都心への出店よりも、出店費用が比較的安く抑えられる郊外を中心に出店し、創業当時のメインターゲットであった学生や若者中心に広まっていったと言われています。僕自身、20代の頃は、住んでいたりして馴染みのあった国分寺店や国立店をよく利用していました。
ちなみに、モスのMOSは、Mountain(山)、Ocean(海)、Sun(太陽)の頭文字で、それぞれに「山のように気高く堂々と」「海のように深く広い心で」「太陽のように燃え尽きることのない情熱を持って」という意味が込められていると言います。なんだか少し意外ですが、面白いですね。
そんな“地域密着型”のモスバーガーが50周年記念の期間限定施策として、2022年3月8日~4月3日の間で行っているのが、東武鉄道とコラボして創業の地である成増の駅名を「なりもす駅」に変更することです。さらにモスバーガーのマークを先頭につけた電車を運行したり、成増店も「モスバーガー なりもす店」とし、記念商品の特別なハンバーガーを売り出したりしています。
このなんともユーモラスな響きを持つ「なりもす駅」は、多くのニュース番組でも取り上げられ、筆者自身もそこからモスバーガーが50周年であることを知りました。かなりの注目を集めることができたという点で、成功事例だと言えるでしょう。
モスバーガーは、米国生まれのマクドナルドとは一線を画す、日本を強く意識した商品開発を長期にわたり行って来ていて、「てりやきバーガー」や「ライスバーガー」なども発明して来ました。また、「アフターオーダー方式」という、ファーストフード店の“スピード感”を一部犠牲にしてでも味にこだわる、という独自の姿勢も貫いています。
そんな独自性のあるブランドの性格を、50周年にあらためて示す形になったキャンペーンだと感じました。