日本の広告最新事例を世界の潮流から読み解く #25

流行を見事に取り入れ、サービス情報を伝え尽くすトライの「THE FIRST TAKE」風テレビCM

前回の記事:
ダイソンのテレビCMに注目 「お求めは直接つくり手から」で伝えるD2Cビジネスのメリット
 私は長年、多くの広告コミュニケーションの海外事例を紹介、その分析に努めているのですが、この連載では、いつもとはある意味では逆に、まず日本の話題作に目を向けて解説し、そのうえで、その意図や施策の在り方が、海外のどんな潮流と関連しているのかについて考えていこうと思います。今回は、その第25回です。
 

ハイジで長く愛されているトライのテレビCM


 テレビを見ていると画面に突然、ある意味ではすでに見慣れたマイク1本とシンガー、英文だけが現れます。それは明らかに、以前この連載でも紹介した「THE FIRST TAKE」風です「ACC賞4冠の『THE FIRST TAKE』。2021年は、“あるがまま”が受けいれられる年だった」。唯一違うのは、シンガーがあのアルプスの少女ハイジのおじいさんである“おんじ”だということだけです。

 そしてすぐに、おんじの素敵な歌声で「春は入会金が無料、授業料も無料♪」と歌い、画面には巨大な文字で「入会金無料。授業料無料」といった文字が出てきます。そして「さらにお得なことがいっぱい♪」と歌い、画面には5つのサービス内容が表示されます。

 そこからさらに歌は盛り上がり、「トライ史上初 フルラインナップ 全力キャンペーン♪」と歌い上げられます。この部分は今風に言えば、相当に“エモく”仕上がっています。特に全力キャンペーンの“ペーン”の辺りは、グッと来ちゃうほどです。

 画面では、歌うおんじのアップの上に、同じく「トライ史上初 フルラインナップ 全力キャンペーン」という文字がある種、乱暴に表示され、最後はおんじが寝ている場面に移ります。文字では「そのすべてはwebで」と表示され、ナレーションで「検索しよう!」とつぶやかれて終わります(こちらは15秒バージョンです。30秒バージョンでは、おんじの夢だったというオチになっています)。
 

 いやぁ、面白いですね。しかも、目立っています。これだけ「クライアントの伝えたいこと」を伝えながら、「家庭教師のトライへの好感度」の増加に貢献できているであろう表現は、そうそう実現できるものではありません。

 歌詞の内容がゴリゴリのサービス情報なのに、ものすごくエモーショナルに歌い上げているのが、ミスマッチを醸し出し魅力につながっています。こうしたブランド訴求とゴリゴリのサービス訴求は、筆者が知る限り日本独特の表現でこの連載でも一度取り上げています「ブランド訴求しながらゴリゴリのサービス情報も。UQモバイルに代表される日本独自のCM手法とは?」

 そして今回はさらに、音楽業界のいちばん新しい動きである「THE FIRST TAKE」と、アルプスの少女ハイジのアルムおんじというもう一つのミスマッチも強烈でした。

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