日本の広告最新事例を世界の潮流から読み解く #34

「制約は舞台」広告クリエイターの技が炸裂した漫画『ザ・ファブル』の駅張りポスター

前回の記事:
どんでん返しは、テレビCMの王道? 評判のAC広告「寛容ラップ」から考える秒数の重要性
  私は長年、多くの広告コミュニケーションの海外事例を紹介、その分析に努めているのですが、この連載では、いつもとはある意味では逆に、まず日本の話題作に目を向けて解説し、そのうえで、その意図や施策の在り方が、海外のどんな潮流と関連しているのかについて考えていこうと思います。今回は、その第34回です。
 

殺し屋の手にサンマが!壮絶な戦いを描く人気漫画


 一般的に「制約」は、邪魔なものとして捉えられます。表現物の一種でもある広告クリエイティブをつくる時も「邪魔な制約が多くて大変そうだ」と多くの人は感じるかもしれません。

 しかし、私が知る限り、広告クリエイターと呼ばれる人は、制約や条件に強い人種です。なんとか制約を乗り越えて、あるいは時に逆手に取って、見る人の記憶に残る表現を考え出します。商品をもう少し大きく、価格が思い切り目立つように、成分名が耳に残るように、この5つのポイントは必ず全部入れてくれ、今回タレントさんは商品を持たない契約なので…などなど。広告クリエイティブの仕事はふだんから、制約になるような要望や条件だらけです。

 彼ら彼女らにとって、こうした制約は、一種の「舞台」とも言えるものです。舞台俳優が大草原で演技するのではなく、劇場の限られたスペースである舞台で活躍するように、広告クリエイターは商品やメディアにまつわる「制約」を「舞台」と考えて、アイデアのバトルを繰り広げます。

 その究極の例とでも言えそうなのが、11月に大阪の地下鉄駅などに掲載された漫画『ザ・ファブル』の駅張りポスターです。ここでの制約は、各鉄道会社が設けている駅張りポスターに対する広告規制。その細かな規定は会社によって異なるようですが、銃などの凶器を登場させることは禁じられていることが多いようです。しかし、『ザ・ファブル』は殺し屋達の壮絶な戦いが描かれている漫画。銃を登場させずして、その魅力は伝えられません。さて、どうするか?
 
最新刊『ザ・ファブル The second contact(5)』

 制作陣が取った作戦は、この制約を逆手に取ることです。殺し屋の手には、銃の代わりに“サンマ”が握られていて、大きく「※広告規制によりサンマを持たされています」の文字が踊っています。銃を持つのがふさわしい状況のビジュアルで手にはサンマがあるわけですから、それだけで面白いし人目を惹きます。さらに「※広告規制によりサンマを持たされています」というコピーがあれば、ニヤリと笑ってしまう人が多いでしょう。
 

 さらに、劇中のセリフと思われる文章にも、すべてサンマ・モチーフで変更が施されています。

「6秒あれば、充分炙れる」
「そうだ。プロはサンマでも宣伝できる」
「たいがいの事は、知恵と工夫で乗り切れる」など。

 いやぁ、どれも気が利いていてとても楽しく、ネット上でも大きな話題となりました。

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