日本の広告最新事例を世界の潮流から読み解く #35

最先端デジタル商材こそ人間味のある表現。昭和の人情を彷彿とさせるリクルート「Airワーク」人気CM

前回の記事:
「制約は舞台」広告クリエイターの技が炸裂した漫画『ザ・ファブル』の駅張りポスター
  私は長年、多くの広告コミュニケーションの海外事例を紹介、その分析に努めているのですが、この連載では、いつもとはある意味では逆に、まず日本の話題作に目を向けて解説し、そのうえで、その意図や施策の在り方が、海外のどんな潮流と関連しているのかについて考えていこうと思います。今回は、その第35回です。
 

デジタル化の大波の中で“昭和の人情”を扱ったCM


 世の中、DX(デジタルシフト)・デジタル化の大合唱です。ネット記事を見ても、テレビをつけても、「デジタル、デジタル、デジタル…」と迫って来る感じがします。得意な人や苦にならない人は良いのですが、正直言って密かに「デジタル化疲れ」を感じている人も、少なくないのではないのでしょうか。

 しかし、デジタル化はそもそも、何のためにするものでしょうか? ある意味でとっても“アナログな”人の日々の営みをより快適に便利にするためですよね。つまり、デジタル化がもたらすべき成果は、実は「快適」や「便利」といったとてもアナログな感情だと言えるでしょう。

 そう考えて来ると、デジタル商材の広告表現は、デジタルっぽい必要はなく、むしろ出来うる限りアナログっぽいほうが良さそうです。デジタルクリエイティブの世界では随分前から、“あえてデジデジしない”といった言い方が聞かれます。「いかにもデジタルっぽくはしない」という意味ですね。

 そうした意味合いで目立っているのが、リクルート・エアワークのテレビCMです。エアワークは、最短5分で採用ホームページ作成が可能で、すぐに求人募集が開始できるというデジタル商材。しかし、そのテレビCMでの表現は、思いっきり昭和な人情ものです。

 舞台は、社員数が数人程度と思われる小さな印刷会社。社長を演じるのはタレントの松本人志で、エアワークで求人ページをつくったが、応募があるかどうか心配気な様子。そこに俳優の山田孝之さん演じる就職志望者が現れて、松本社長が「ワークしとるやん(機能してるやん)」と感心する第1弾がオンエアされたのは、2021年12月のことでした。
 
Airワーク 採用管理 (リクルート)のテレビCM第1弾「出会い篇15秒」

 以来、着々とシリーズを積み重ねて、2022年11月には第9弾に当たる「デスク篇」のオンエアが始まっています。この「デスク篇」では、エアワークで採用ページをつくったものの、応募者がいないのではと心配して確認できていない松本社長が描かれます。すでに社員となっている山田さんが、大丈夫ですよと促して恐る恐る見てみると、予想以上の応募があって、2人でハイタッチ!かと思うと、2人の手はすれ違ってしまう、という“小ボケ”がかまされます。
 
Airワーク採用管理(リクルート)のCM第9弾「デスク篇30秒」

 この小ボケ含めて、舞台となる会社の雰囲気も、2人が演じるキャラクターも、その会話も、すべてが人情味あふれていて昭和を彷彿とさせます。“デジデジしない世界”で描かれていて、数多くあるデジタル商材のテレビCMの中で異彩を放ち、大きく目立っていると感じます。

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