日本の広告最新事例を世界の潮流から読み解く #36

サントリー「社長のおごり自販機」 人と人との繋がりを製品を通してつくる粋な挑戦

前回の記事:
最先端デジタル商材こそ人間味のある表現。昭和の人情を彷彿とさせるリクルート「Airワーク」人気CM
  私は長年、多くの広告コミュニケーションの海外事例を紹介、その分析に努めているのですが、この連載では、いつもとはある意味では逆に、まず日本の話題作に目を向けて解説し、そのうえで、その意図や施策の在り方が、海外のどんな潮流と関連しているのかについて考えていこうと思います。今回は、その第36回です。
 

社内コミュニケーションを促す、サントリーの粋な自販機


 コロナ禍も下火になってきて、マスク使用の有無が議論になるこの頃。それでも、職場によっては、リモートワークを続けている人が大半だと耳にします。都心の会社まで通う時間と労力を考えれば、それは歓迎すべきだという意見がある一方で、人間関係の希薄化を懸念する声も多く聞かれます。

 特に新入社員や中途入社した人も、上司や同じ課の人とほとんどリアルで会ったことがない、なんてこともザラのようです。また、オンライン会議だと“雑談”が減り、そうしたところから生まれる繋がりの減少も懸念されています。

 そこで、サントリーが“自販機でオフィスをちょっとハッピーに”と銘打って開発したのが、「社長のおごり自販機」です。これは、オフィスに社員2人が揃い、2枚の社員証を同時にタッチすると、それぞれ1本ずつ飲み物が無料でもらえる(会社が支払う)という特別な自販機です。


サントリー「社長のおごり自販機」の公式ホームページ

 “仲間を誘って、ひと息つこう。他愛のない、おしゃべりが、いい仕事のきっかけに。”と、サントリーは提案します。この自販機に導入費用は必要なく、この方法で購入された飲料代を会社が負担するだけです。「社長のおごり」以外にも、「工場長のおごり」や「センター長のおごり」など、職場の事情に合わせて選べるようになっています。

 公式ホームページに掲示されているPR動画では、コクヨ社での実験の様子が描かれ、楽しそうに2人で社員証をかざす社員を見ることができます。コクヨ社でのアンケート調査によれば、「本自販機がコミュニケーションのきっかけになりましたか?」という質問に、実に97.8%の人がハイと答えています。
 

 PR施策を展開しているのだと思いますが、朝のニュース番組で何度か報道されているのを私自身も目にしました。製品だけではなく、製品を通して“人と人との繋がり”に寄与したいんだ、という企業の気持ちが感じられる、粋な施策だと思います。

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