日本の広告最新事例を世界の潮流から読み解く #38

「カチカチのアイス」が“らしさ”を演出。東海道新幹線の情緒たっぷりなテレビCM

前回の記事:
iPhone テレビCMのヒーローではない「サエない一般人」が不思議と共感を呼ぶ
  私は長年、多くの広告コミュニケーションの海外事例を紹介、その分析に努めているのですが、この連載では、いつもとはある意味では逆に、まず日本の話題作に目を向けて解説し、そのうえで、その意図や施策の在り方が、海外のどんな潮流と関連しているのかについて考えていこうと思います。今回は、その第38回です。
 

短いカットを積み重ねて、新幹線の“シズル感”を存分に描き出す


 そのテレビCMは、タクシー内で腕時計を見ているシーンから始まります。少し長めのカットもありますが、基本は1~2秒の短いカットの積み重ねです。品川駅や新横浜駅など新幹線停車駅が映し出され、改札を通る場面、プラットフォームに出るところ、「のぞみ203号」と書かれた電光掲示版など、“新幹線ならでは”のシーンが次々と映し出されて行きます。

 人気実力派歌手として知られるUA(ウーア)が歌う書き下ろし楽曲『会いに行こう』が、♪いつもの場所を 飛び出して 心が向く方へ まっすぐに♪と歌い、♪見慣れた街が遠ざかる 過ぎ去る景色に迷いを置いていこう♪と盛り上がっていきます。
 
JR東海「会いにいく、が今日を変えていく。」

 メイン・キャラクターである俳優の賀来賢人さんが、新幹線利用者としてさりげなく登場。その辺りから、場面は、新幹線の車窓に見える風景の、これまた短いシーンの積み重ねへ。東京タワーや「727(化粧品)」の看板や沿線のカラフルな住宅地などが現れます。座席でのホットコーヒーや缶の飲み物を開けるところ、そして記憶にある方も少なくないと思いますが、カチカチに固いアイスクリームなども登場します。さらにPCを開く場面、美しい富士山、トンネルを抜けるシーンなども描かれて行きます。

 広告界では、体感できる“らしさ”を称して、シズル感と呼ぶことが多いのですが、積み重ねられる短いシーンは、どれも「新幹線での旅」のシズル感に溢れていると思います。個人的には、“カチカチに固いアイスクリーム”に、新幹線シズルを強く感じました。車窓の風景などは他の列車の旅でも見られるものだと思いますが、僕が知る限り、あの固いアイスクリームには、新幹線でしか出会った記憶がないからです。

 終盤では、様々なタイプの仕事相手の人々が登場し、「会うから見える、顔があるから。」のコピーが掲出されて、新幹線出張を促す広告クリエイティブになっています。一方で「心が向く方へ♪」や「迷いを置いていこう♪」、「僕と今日を変えていく♪」といった歌詞にも見られるように、単なるビジネスの成功をうたうのではなく、コロナ禍を抜けて、遠方へ移動できる喜びが、かなりエモーショナルに表現されているのではないでしょうか。

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