日本の広告最新事例を世界の潮流から読み解く #41

衝突実験用ダミー人形なのにどこか悲しそう。iPhone緊急SOSサービスの秀作テレビCM

前回の記事:
見たことがないものを見せる。広告の王道で話題「宮崎牛 牛肉の富士山」
  私は長年、多くの広告コミュニケーションの海外事例を紹介、その分析に努めているのですが、この連載では、いつもとはある意味では逆に、まず日本の話題作に目を向けて解説し、そのうえで、その意図や施策の在り方が、海外のどんな潮流と関連しているのかについて考えていこうと思います。今回は、その第41回です。
 

 衝突を察知し通報、ダミー人形の表情がなんだか悲しそう…


 そのテレビCMは、エモーショナルでムーディな楽曲の低い伴奏音から始まる。画面手前から奥に、何か巨大なものが滑って行く様子。見ているとしだいに、事故に合った自動車が横転したシーンだとわかる。

 カメラが捉えるのは、横転した自動車の車内で真っ逆様になる衝突実験用ダミー人形の顔のアップだ。通常、ダミー人形の顔には目や口は描かれていないが、アップで映し出される顔には、しっかりと目と口と眉が書き込まれている。眉は下がり眉で、心なしか悲しそうに見える。

 楽曲は、メインボーカルに入る前のコーラスも“人っぽさ”を感じさせる。自動車は横転しながら回転して、ダミー人形は地面に正対していて、黒ぶちっぽい眼鏡が飛び散って行く(普通はダミー人形に眼鏡はかけさせない)。

 ダミー人形の顔がアップになった後に、カメラが切り替わると、運転席の脇にiPhoneが据え付けられていて、その画面には何故か、ダミー人形風の犬が映っている。音楽はメインボーカルのパートが始まり、男性の切ない歌声で、「♪君はもう僕を傷つけることは出来ないよ♪」と歌い始める。そこに、横転を続ける自動車と、車内で振り回されるダミー人形が映され続ける。

 楽曲のコーラスのリズムに合わせ3段階で、バックミラーに映るダミー人形の顔部分がアップになって行った後に、iPhoneの画面に「衝突事故に巻き込まれた可能性があるようです」の文字が現れ、その後に「衝突事故の検出も、大丈夫、iPhone14Proなら。」というメッセージが現れる。
 
Apple iPhone 14 Pro CM 「Crash Test」篇

 感情移入しにくいダミー人形を使わざるを得ないシチュエーションであることを踏まえ、そんな中でも見る人に少しでも共感してもらい“自分ごと”として捉えてもらえるよう、細かいところまで配慮された秀作テレビCMと言えるだろう。このビジュアルで、こんなにもエモーショナルな楽曲を使用することが、すでにその意図を如実に表している。

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