日本の広告最新事例を世界の潮流から読み解く #42

チビッ子には「水に顔を5秒間」も大冒険。優しい目線でジンワリさせるマクドナルドCM

前回の記事:
衝突実験用ダミー人形なのにどこか悲しそう。iPhone緊急SOSサービスの秀作テレビCM
  私は長年、多くの広告コミュニケーションの海外事例を紹介、その分析に努めているのですが、この連載では、いつもとはある意味では逆に、まず日本の話題作に目を向けて解説し、そのうえで、その意図や施策の在り方が、海外のどんな潮流と関連しているのかについて考えていこうと思います。今回は、その第42回です。
 

60代の今でも当時の恐怖をうっすら覚えている。そんな記憶がくすぐられる


 私はテレビをつけっ放しにして、原稿を書いたり、企画書を作ったり、仕事をしていることが多い。見るとは無しに、時々気になったら目線をやる、といった形だ。

 そんな視聴の形でも最近、自分の目線と関心をしっかり捉まえて見入ってしまうテレビCMがある。マクドナルドの「家族といっしょに『約束のハッピーセット』篇」だ。

 聞き覚えのあるギターのイントロが始まると、すぐに「はい、じゃあ、5秒顔つけてみようか」という優しい女性の声が耳に入って来る。場面は水泳教室のプール。5歳くらいだろうか、幼い男の子が固い表情で首を横に振る。恐いのだ。プールサイドから見守る若い父親。帰り道に見かけたマクドナルドに入りたそうな息子の姿が描かれ、♪小さい頃は、神様がいて♪とユーミンの名曲の歌が聞こえてくる。

 そこから父と息子の“5秒チャレンジ”が始まる。指切りをし「約束ね」と言い合いながら。明示はされないが、5秒チャレンジに成功したら、ハッピーセットを食べに行こう、という約束だろう。その後、お風呂で、家の庭でタライに水を張って、公共のプールで、ビニールプールで。その度にアップになるのは、息子が水に顔をつけているシーンの真下からのアップ映像だ。やがて、「おおおおーっ!」と父が歓喜の声を上げ、どうやら5秒を達成したらしい模様が描かれる。

 場面が変わって、再び水泳教室。「じゃあ、5つ数えるからね」という同じ先生の声にうなずきながらも、不安そうな息子。見守る父親。またまた水中シーンの真下からのアップ。そこで5秒チャレンジに成功したことが暗示されて、音楽は、♪カーテンを開いて~♪という盛り上がりのフレーズに移行する。

 すると、画面は切り替わって、水中シーンの真下からのアップと同じアングルで、ハッピーセットの紙袋が開けられて現れる息子の顔のアップが!「やった!」と嬉しそうな息子。そこに「ハッピーセットにはきっと、小さな約束が詰まっている」のナレーションがかぶさる。
 
『家族といっしょに。「約束のハッピーセット」篇』

 いやぁ、良く出来ている。見る度にほっこりして、少しジーンとしてしまう。父親役は有名俳優の染谷翔太で素晴らしい演技を見せているが、このテレビCMの主役は、どう見てもこの幼き男の子だろう。

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